古代の叡智

太古の昔に栄えたとされる文明――その断片は、都の図書館に保管された古い石版や、荒野にそびえる朽ちた遺跡に散らばっていた。しかし、誰もがそれをただの伝説か神話程度にしか考えていなかったのである。

フィデア皇国の技師フォルツが、古い巻物の束を手に宮廷へ駆け込んだのは、遺跡探索から戻ったある夕刻のことだった。

小国ゆえに脅威にさらされ、国外から押し寄せる戦乱の気配に怯えきっていた廷臣たちは、そのあまりに興奮した様子のフォルツを、疑わしげに見つめた。

「ついに確たる証拠を見つけました! かつてこの地に栄えた古代文明は、神気を動力とする巨大兵器を作り上げていたのです!」

フォルツの声が、薄暗い石造りの謁見の間に反響する。
ゾルオネ枢機卿は身を乗り出しながら、しかしまだ半信半疑のまなざしで応じた。

「詳しく話せ。……その“巨大兵器”とやら、本当に動くというのか?」

フォルツはどこか取り憑かれたような瞳でうなづき、手にしていた書物を開いてテーブルに広げる。

古めかしい文字や絵が連なり、そこには明らかに常軌を逸した人型の機械が描かれていた。

それは人の数倍、あるいはそれ以上の大きさを持ち、胸部に宝石のような輝きを宿している。書物の余白には設計図に類する線画が走り、呪文か何かを示す紋様まで綴られているようだ。

「――これは、遺跡で発見した文献と石版の断片を合わせて復元したものです。見てください。この箇所には“魔導巨兵”という文字が……」

その声に興味を示したのは、ゾルオネのすぐそばに侍る小柄な学者・ラディエだった。
ラディエは震える指先で、書物中の不思議な曲線をなぞり、唇をかすかに開く。

「神気……それは世界中に満ちる力。古代文明の者たちは、それを取り込む機構を“結晶核”と呼んでいたのか……。そして、この図面。まるで人形の内部に組み込む設計のようです」

水を打ったように静まる廷臣たち。

彼らの多くは『神話か伝承とされてきた代物を、今さら信じられるわけがない』と言わんばかりに眉をひそめている。

だが、ゾルオネは違った。

戦乱の影が濃くなりつつある危機の時代にあって、伝説と評される何か――圧倒的な力を秘めた兵器――があるのなら、賭ける価値があると判断したのだ。
ゾルオネは歪んだ笑みを浮かべ、激動する胸の鼓動を抑えつつ、硬い声で言い放つ。

「もしこれが事実ならば、我がフィデアを守るための切り札となるだろう。研究を急げ。遺跡の調査を拡大し、必要な石材や金属、宝石も集めよ。そして“神気”という力の正体を探り、あの図に描かれた機械を完成させるのだ」

フォルツは無言で深く頭を下げる。

きっと、この古代の叡智を再現できれば、圧倒的優位な戦力が得られるはずだ――その確信がフォルツの胸を熱くする。

一方で、学者ラディエは複雑な表情を浮かべていた。

人間には扱いきれない危険をはらんでいるのではなか。
そんな漠然とした不安が胸をよぎる。

だが、小国として生き残る術は限られている。
フィデア皇国にとって「古代文明の叡智」こそが、未来を変えるかもしれない唯一の希望だった。

こうして、歴史に刻まれる魔導巨兵誕生の第一歩が踏み出される。
やがて目覚めるのは、神話にも等しい“人造の巨人”――周囲の神気を取り込み、決して止まらぬ兵器。

その闇と光に満ちた物語は、すでに幕を開けていた。

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コメント

  1. 6章ドコ? より:

    これが6章のプロローグかぁ~と思いきや!?
    しかしながら魔導巨兵は説明が少なかったので解像度が上がってよかったかも。

    • akima より:

      スイマセン、6章書いてたんですが…
      魔導巨兵が出てきまして。
      もっとちゃんと説明した方がいいかな?
      というわけでサブストーリーをはさんでみました。
      ゴーレムみたいなものなのですが、動力源とかも描写してみようかなって…

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    遺跡の巻物、図書館の石板、設計図を復元し古代兵器を再現する、熱いロマンに満ちています。
    結晶核は拡張性を予感させるワードですね。ブリッツの出力を強化したり。
    小柄なラディエは男か女か。

    • akima より:

      そうなんです!
      やっぱりロマンですよね!
      遺跡・巻物・石板…
      中2成分が濃い!

      結晶核はご指摘どおり、今後のブリッツの強化にも使われる予定になっています。
      ラディエは…確かにこれじゃわからないですねm(_ _)m

      • 匿名 より:

        ブリッツ強化ええやん
        正統強化ってカンジで
        話の筋としても無理ないし
        材料はヴァルライト?

        • akima より:

          やっぱ聖女にはBLITZで戦って貰わなきゃ
          聖女BLITZだし
          材料は宝石など様々な高級素材が使われております!

          • 聖剣の目隠し乙女 より:

            フィデア皇国の魔剣を使うディアゼは異例の存在ですね。
            原初の聖女は別枠として、魔剣・神器などブリッツ以外の武器は主に敵が使うとか。

          • akima より:

            すでにオーゾレスのように神器を取り込んだブリッツ、を使ってる聖女なんかもいたりするんですけどね。
            神器だけを使う者もいますし…
            でもメインは聖女×ブリッツでいきたいです!

  3. 匿名 より:

    ゾルオネはダフニズ王の許可を貰う前から魔導巨兵の研究を勝手に始めてたわけだ。by 傀儡の王
    国を守るために仕方なく魔導巨兵を使う
    てのは建前でハナから侵略戦争の道具にするつもりだったのね

    • akima より:

      まさに傀儡としか思っていないというか、ダフニズがダメって言っても独断で進めるつもりなのであります。
      国防のため、というのは大義名分を得て軍拡し、フィデアの民こそが世界で最高の民族だと知らしめる…という野望を持っていました。合掌!

  4. 聖剣の目隠し乙女 より:

    攻撃力だけなら神器に匹敵し得るブリッツが更に強化されるとしたら、ラージェマが懸念した通り神々に届く可能性が出てきますね。
    攻撃防御など基本性能アップの他、一度に操作可能なブリッツの数を増やしたり。

    • akima より:

      そうなんです、神器を模したBLITZがついに神器を超える…!?
      かどうか、はわかりませんが武器としての基礎性能はかなり近づいています。
      結晶核をプラスしたBLITZがどのように進化するか、また誰が作るのか!?
      その辺りも書いていきたいと思います。

  5. 聖剣の目隠し乙女 より:

    取り込んだ神気を変換する機構を設ければ、炎冷雷を纏った武器を再現する事も?
    ゼルロズの翼状ブリッツに結晶核を組み込めば、速度も強化可能。
    剣や鎧に無敵な魔導巨兵がロケット弾のいい的にされても砕かれない防御耐久力を神気で獲得するとしたら、盾や鎧、念動防御も強くなる。
    ブリッツとの親和性を高めれば自身の肉体の様に意識せずとも自在に操作でき、精密性も向上。
    取り込んだ神気で聖女自身の法力を増幅すれば、感応力・念動力の威力/範囲も広がる。
    結晶核は突き詰めれば人造神器になる!? 天才ヴェイダル博士の活躍に期待!

    • akima より:

      炎冷雷を纏った武器!
      そこにはロマンがある…
      翼型のブリッツは飛行の補助として使えるので、今後も出していきたいと思ってます。
      長距離を飛行するときに良さそう。

      結晶核は突き詰めれば人造神器に!
      これもアツイ展開ですね。
      人が作ったものがどこまで神の作ったものに近づけるのか?
      ヴェイダル博士とその弟子たちも今後登場予定になってます。

  6. 聖剣の目隠し乙女 より:

    結晶核は神気を集める性質上、出力が増大しても聖女自身の法力消費は増えないのが継戦能力で地味に重要ですね。
    神気の操作を行う聖女自身の毛細血管にはより大きな負担がかかりそうですが…。
    結晶核が近くに集まると神気を取り合い供給不足になったりしないのでしょうか?
    膨大な神気を込めたカートリッジ型結晶核を装填する事で、ヴィゾアの天墜を短い溜めで連続使用できる様になると強力です。
    神気の制御を魔導巨兵で機械的に行えるとしたら、聖女を必要としない超兵器が誕生する事に。

    これが荷電粒子砲を備えた新型魔導巨兵か。見れば見る程、可愛い化け物だ。薙ぎ払えっ!!

    • akima より:

      結晶核が周囲の神気を集め、ブリッツに浸透させてくれたら法力の伝導率がもっと上がる!
      そして、もっと少ない法力でブリッツを操作できる!
      という流れで考えています。

      カートリッジ式いいですね!
      そのぐらいコンパクトにできたらブリッツに搭載できそう。
      いろいろ構想が膨らんで楽しいです笑
      本当にありがとうございます。

      荷電粒子砲を備えた新型魔導巨兵…つよそう。
      クシャナ殿下最高です!強い女最高!

      • 聖剣の目隠し乙女 より:

        天墜に相当する神気だと交換するエネルギーパックはコンパクトより大型になる気がします。
        長大な薬莢をボルトアクションで排莢、装填すると必殺の一撃感が増します。
        小型化した物をあまり沢山携行出来てもありがたみが無くなるので。
        YouTube 「The MS-05L Zaku I Sniper Type」0m:34s~0:42s 旧ザク動画がイメージに近いです。

        • akima より:

          天墜ぐらいの大技になると小さなカートリッジではまかなえそうにないですね。
          ボルトアクション…胸が熱くなる響き。
          ぐるっと一周させて装填させるとか!
          動画見てみます!

  7. 聖剣の目隠し乙女 より:

    大技の特別性として天墜用結晶核はダウンサイジング出来ない為、携行数が限られ物語が進むとビット➔ファンネルの様に小型大容量結晶核にブリッツの技術革新が進むと、神器に頼る必要無く聖女の法力と人の叡智で戦い抜けますね。

    • akima より:

      小さなブリッツに小型結晶核を搭載し、オールレンジで戦う…
      念動力で操作するので、取っ手とか引き金とかいりませんもんね。
      ブリッツをさらに先に進めるのが今後の展開の中で重要ポイントですね。