野猫の祝福

黄金の髪が風になびく。
肩に触れるか触れないかの長さの髪が、まるで猫の尻尾のように気ままに揺れている。

「大変だ!ベルナズ、来てくれ!獣魔が出たんだ」
路地裏から聞こえる旧友の声を聞き、ベルナズは軽やかに立ち上がる。
膝の上で温もりを分けていた黒猫が、不満げな鳴き声を上げた。

「悪いな。後でまた来るよ」
猫の頭を軽く撫でると、ベルナズは路地裏へと駆け出した。

幼い頃に両親を失い、厳格な祖母の元へと預けられた時から、ベルナズは自由を求めていた。
「淑女たるもの」という言葉で始まる祖母の説教は、いつも耳をすり抜けていった。
代わりに彼女が選んだのは、街の悪ガキたちとの冒険だった。

祖母の言葉を、ベルナズは「猫たるもの」と勝手に改変し、心の中でつぶやいた。
路上で出会う野良猫たちこそが、彼女の理想だった。
誰にも縛られず、気分次第で行動を決める。
けれど、決して弱くはない。したたかに、しなやかに生きている。

時折、家族の温もりを思い出すことはあった。
幼すぎて、両親の顔さえ定かではない。
そんな時は決まって、路地裏の仲間たちを探した。

毛並みも性格も様々な野良猫たち。
彼らと過ごす時間が、ベルナズにとっての癒しだった。

神の祝福――天啓を受けたのも、そんな路地裏でのことだった。
突然の温かな光に包まれた時、ベルナズは不思議と恐れを感じなかった。
まるで、母親に抱きしめられているような、懐かしい感覚だった。

「聖女」という称号を得て、不良娘に対する人々の態度は一変した。
祖母でさえ、孫娘を誇らしげに見るようになった。けれどベルナズは変わらない。
今も変わらず気ままに、猫のように自由に生きている。

「ふん。小型獣魔が一匹か。とっとと消えな」
街はずれの海沿いに巨大な影がうごめいていた。

黒い瘴気に包まれた獣魔が牙をむき出しにしている。
ベルナズは軽やかに身体をひるがえし、まるで猫のような動きで獣魔の死角に回り込んだ。

彼女のあやつる砲型ブリッツから放たれた光はあたたかく、そして鋭い。
頭部を失った獣魔は、轟音を上げて崩れ落ちた。

「ベルナズ様、街を守っていただき、ありがとうございます!」
駆けつけた衛兵に、ベルナズは気まぐれな笑みを向ける。

「ケッ。街を守ったつもりなんてねーよ」
彼女は肩をすくめる。
獣魔を倒すのは、猫が気まぐれにネズミを追いかけるようなもの。
たまたまそれが、人々の平和に繋がっているだけ。

「さてと」
ベルナズは空を見上げた。夕暮れが近い。
路地裏の黒猫が、待っているはずだ。

聖女という称号も、神からの祝福も、彼女の本質は変えられなかった。
ベルナズは今日も、気ままに街を駆け抜ける。
金色の髪を風になびかせながら、まるで野良猫のように自由に、そして誇り高く。

コメント

  1. 匿名 より:

    こういった小話をはさんでもらえるとキャラクターの過去がわかるのでいいですね。ぜひヴィゾアとの出会いや聖女の部隊?に入った経緯もお願いします。

    • akima より:

      ベルナズがどういう人なのかを簡単に説明できたらいいな、と思って書きました。
      ありがとうございます!
      聖女が王国に所属する話もまた書きたいと思います。
      三国で微妙に違ってくるので、また別のキャラストーリーで。

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    ベルナズの鋭角な戦闘バイザーが普段用の白い物に。布地に金糸の目隠しでしょうか。

    • akima より:

      そうなんです、あのトゲトゲ、どうやっても普通の格好に合わなくて…
      トゲトゲ系は普段着用の布のバイザーに変更しております。
      布地に金の刺繍が入ってる系ですね!

  3. 聖剣の目隠し乙女 より:

    当たったら痛そうな鋭利な形状を活かし、弾切れした時の最後の武器として念動力で飛ばし切断する。「ジャッ!!」

    • akima より:

      実はそういう構想もあります…が、目隠し状態が解除されてしまうんですよね。
      それはこの作品の根本を揺るがしてしまう大問題なので、ごく限定された条件になると思います。