「超特大フルーツタルト…ふぅん。悪くないわ」
腕を組んでカフェのメニューの前にたたずむ、目隠しをした女。
銀色の髪が艶やかに揺れ、行き交う人々たちは流れるような彼女の仕草に目を奪われる。
石畳の道が陽光に輝き、古いレンガ造りの店が並ぶおだやかな街並み。
その中でも、ひときわ人々の活気で賑わっているのがこのカフェだった。
「あったあった!お姉ちゃん、ココだよ。食べきったら無料になるんだって!」
「へえ~それなら今日はタダメシ確定だね、って…あれは」
ジレミューとダルメザは、小首を傾げながらこちらの様子を伺う女を見た。
褐色の肌と露出度の高いドレス。
美しい顔立ちを台無しにする、蔑むような微笑には覚えがあった。
「ギルゼンス…!」
「えーっと、あなた達はエザリスの聖女だっけ。で、ヤる気?お互い丸腰みたいだけど」
ダルメザは反射的にジレミューの前に立ち、全身に法力をめぐらせた。
ゲイルード海上要塞の戦いで、主君を戦闘不能にしたギルゼンスが目の前に立っている。
しかし、殺気は感じられなかった。
「私は休憩がてらカフェに寄っただけよ。ヤるなら別にいいけど?」
「くっ…」
「お姉ちゃん、ここじゃダメだよ!」
ジレミューがダルメザの袖を引っ張る。
いかに丸腰といえど、今のギルゼンスと戦えば二人がかりでも数分と持たないだろう。
悔しいけど引き下がるしかない――否!
「ねえ、大食い対決と行こうよ!先にこの超特大タルトを食べきった方が勝ち!」
「くっふふ…受けて立つわ。お腹も空いていたところだし」
バイザーの奥でギルゼンスが目を細める。
獣魔であるエルゼナグと融合してからというものの、空腹になるペースが早まっていた。
三人は同じテーブルにつくと、超特大フルーツタルトを注文する。
店内にどよめきが走った。
「おいおい、女三人でふたつも頼んだぞ…?」
「やめとけって姉ちゃんたち。食えるわけねえ」
周囲の男たちが野次を飛ばした。
「ヴィゾアの仇を取りたいでしょ?頑張ってね」
ギルゼンスはニヤニヤと笑みを絶やさずにカップを傾けている。
「お姉ちゃん、あの人すごい余裕だね。なんか強くてえっちな人ってことしか知らないなけど、食べる量も多いのかな?」
「さあ、聞いたことないけど。ま、あたしの敵じゃないでしょ」
ダルメザは、ポキポキと指を鳴らす。
戦闘はとにかく、この領分で自分が負けるわけがない。
そう確信していた。
木製の扉がゆっくりと開かれる。
奥の厨房から運び出されたのは、巨大なフルーツタルトだった。
銀色のトレーの上で煌めく、鮮やかな果物の山。
それはもう「山」という言葉以外に形容しようがない代物だった。
「お待たせしました!こちらがご注文の超特大フルーツタルトです!」
ウェイターの声がカフェ中に響くと、視線が一斉にその方向に集中した。
テーブルまで運ばれたタルトは片手で持てないほどに大きい。
外側には生クリームがこんもり盛られ、中央には様々なフルーツがぎっしり詰め込まれている。
「ちょっ、お姉ちゃん……これ、本当にひとりで食べられるの?」
タルトの迫力に押されたジレミューが、半ば呆然と口を開いた。
その隣でダルメザは静かに目を閉じ、合図を待つ。
周囲の客たちが集まり始めた。
「頑張れー!」
「おお…これ流石に多くないか?」
「次、私も挑戦してみたい!」
拍手を送る者、励ます者、そして冷やかす声まで入り乱れる。
「ふふ…面白いじゃない。燃えてきたわ!」
両手にフォークを持ち、ギルゼンスが歪んだ笑みを浮かべる。
「制限時間までに完食された場合、お代はいただきません!それでは、開始します!」
ウェイターの合図がカフェに響き渡る。
「よおおおおし!行くぞおおお」
「いっけええお姉ちゃん!」
ダルメザは叫び、フォークを思い切りタルトに突き刺した。
周囲から歓声が上がるが、誰もがその顔に浮かぶ不安を隠せない。
フルーツの甘い香りが漂い、空気は張り詰めるような静寂と期待感に包まれた。
果たして、聖女たちはこの甘味の山を攻略することができるのか。
カフェの昼下がりは、誰もが想像していなかった劇場に変わりつつあった。
「そ、そんなバカな…お姉ちゃんが負けるだなんて…」
ジレミューが両の拳でダンッダンッ、とテーブルを叩いた。
「うぷ…勝負あったみたいね」
制限時間を迎えた今、ギルゼンスの目の前にある巨大な皿は空になっていた。
一方、ダルメザの皿にはまだタルトが残っている。
手のひらに収まるほどではあるが――
「むぐぐ、そんな…あたしが負けるなんて…」
ダルメザが涙ぐむ。
大食いバトルで自分が負けるなど、想像したこともなかったのだ。
美食の街パルーザの絶対王者にして「最食の聖女」と謳われたフトマジィを下し、自分に並ぶものは居ないと慢心していた。
「あたしもまだまだってことか。次は…次は負けない!」
「ふふ…いい勝負だったわね。そ、それじゃ失礼するわ」
ギルゼンスは席を立つと、ゆっくりとカフェを後にした。
『バカが。調子に乗りすぎだ』
「ちょっと黙っていてくれる?消化に集中したいわ」
ギルゼンスは腹に手を当てながら、内なる声に向かってつぶやく。
今回は獣魔の力で勝ちを拾ったが、次に戦ったら――
乾いた風がギルゼンスの頬を撫でる。
ひとつの戦いが静かに幕を閉じた。
しかし、その安堵は刹那のものに過ぎない。
ギルゼンスは予感する。
これはまだ長き戦いの序章でしかないのだ、と。
コメント
自分の独力では勝てなかった勝負で勝利を強調しない辺り、妙な部分で分別がありますね。
果物農家やフルーツパーラーは争いに巻き込まない様に保護する、独自の線引きがありそう。
フトマジィは食は太くても、見た目は細いか否か。
AIタルトはクリームばかりでフルーツが足りないですね。
そこに謎のプライドがあるんでしょうか笑
ギルゼンス農園の誕生も近い…!
フトマジィは見た目もぽっちゃりタイプな聖女です。
ダルメザとの戦いの前に食べすぎて敗退したという謎設定があります笑
タルトはちょっと迫力不足でしょうか、もっと山のようなタルトになるように勉強しないとですね!
なんかトップページが黒ギャルばっかりなんですけど!
ええ~?
本当ですか?
おかしいですね。
思ったよりでかくないかな
と思ったけど一人で食うのは大変そう
10人分ぐらいはあるんじゃないですかね!?
クリームもかなり多めです笑
ギルゼンス「あら、誰かと思えば聖女帝サマじゃない。こんな所で会うなんて奇遇ね」
パルゼア「…ないんだ…」 ギルゼンス「何?ハッキリ仰いなさいな」
パルゼア「サンタさんはいないと皆が言うんだ…」
ギルゼンス「ちょ、ちょっと、いきなり泣き出さないでよ。 ハァ、…調子狂うわね…。
私のだけど良かったら、この期間限定特大フルーツタルト食べる?」
パルゼア「…食べる…。グス…、お前良い奴だな」
ギルゼンス「お気に入りの店で荒事なんて願い下げなだけよ。ま、私でも毒気を抜かれる事位はあるわ」
食べるんだ笑
特大だけどパルゼアも完食できるのか!?
意外と街で出会ったらこんな感じかもしれません。
というかパルゼアも食べに来たのかなフルーツタルト。