「見事な仕上がりだ。古の神器にも劣るまい」
ラージェマは徹甲弾を模した超重量のブリッツを片手で持ち上げ、感応力をめぐらせた。
使用されている素材は、いずれも聖女の法力が伝導しやすいものばかりだった。
「いやぁ、そこまで言っていただけるなんて。嬉しいです」
向かい合わせに設置された長椅子に腰掛けたまま、ヴェイダル博士ははにかんだ。
ただし、その表情にはわずかな陰りと緊張が見える。
ラージェマから依頼された特注のブリッツを作り上げるため、数ヶ月は制作に集中していた。
「君に頼んで正解だったよ。さすが神器を模した武器――ブリッツの発明者だけはある」
ラージェマは長椅子に深く腰掛けると、両手をひざの上で組んだ。
空中に静止していた黒いブリッツは、ひとりでに足元に置かれた大型の鞄の中に入っていく。
「だが」
空気が張り詰める。
客室は凍りついたように寒々としていた。
「人間には過ぎた武器だ。聖女の法力が合わされば、私や神にも届きうる。そう思わないか」
ラージェマは無表情のまま、ゆっくりとそう問いかけた。
目元はバイザーで覆われていて、見えない。
しかしその奥に輝く瞳が自分を射抜いていることを、ヴェイダルは鮮明に感じ取っていた。
「まさか。ブリッツは獣魔を討ち滅ぼすために作ったものです。神に仇なすようなことは、決して――」
ヴェイダルが言い終える前に、ラージェマの背後に置かれていた大剣がひとりでに浮かび上がる。
氷のように煌めく刃は、まるで様子をうかがっているようだった。
ヴェイダルのこめかみに汗がつたう。
「お戯れを」
客室の入口から低い女の声がする。
義足とは思えないほど滑らかな動きで部屋に入ってきたのは、原初の聖女ゼタリリアだ。
そしてヴェイダルの背後で、黄金に輝く4本の剣が彼を守るように浮遊する。
「アズトラ様の宝剣か。なるほど、見本となる神器が手元にあったのだな」
ラージェマが感心したようにそう言うと同時に、大剣は元あった床へと戻った。
一切の音も立てずに。
「剣の封印を解いたことこそが人間の最大の罪。だが、今となっては詮無きことか」
「罪?どういうことですか」
ヴェイダルは眉をひそめて問う。
しかし、ラージェマは何も答えずにゆっくりと立ち上がった。
「私はこれで失礼するよ。君の仕事には感謝している」
ラージェマは緊張するふたりを交互に見て小さくうなずいた。
「君に危害を加えるつもりはない」
振り返り、開け放たれた窓からバルコニーに向かって歩き出す。
その背を追うように、大型の鞄と大剣がふわりと浮かび上がった。
室内に入り込む風が、ラージェマの衣をやさしく揺らした。
朝日が差し込み、やわらかな光がバルコニーの床を黄金色に染める。
「もう帰るのか?」
頭上からの声。
そして小さな影が落ちる。
空から現れた少女が、金色の大剣とともにバルコニーに着地した。
4本の大剣が威嚇するように刃鳴りを起こす。
「私の父に刃を向けたな」
「そういえば娘がいたか」
ラージェマは光差すバルコニーでリンカージェと対峙する。
その距離は十歩に満たない。
「リンカージェ!だめだ!」
叫びながら走り寄ろうとするヴェイダルを、ラージェマが振り返らずに片手で制した。
「友人として忠告しておこう。私はこの地に天獣を放つ。狙いは聖女だ。君たちは力を持ちすぎた」
低く落ち着いた声が静かに響く。
「すぐにこの地を離れることだ」
「待て!――うっ!?」
空中へ飛び上がるラージェマを追おうとした時にはじめて、リンカージェは自らの異変に気づく。
彼女の下半身はいつのまにか分厚い氷で覆われ、凍っていた。
まるで床に縫い付けられたかのように、身動きができない。
駆け寄ったヴェイダルは、娘の無事を確認するとバルコニーの手すりにつかまって空を見た。
神獣の化身を封印したという伝説の御使いは、大気を切り裂くように飛び去っていく。
その影はやがて小さな点となり、青い空に溶け込むように姿を消した。
ヴェイダルの目に残るのは、わずかな残光と胸に去来する静かな余韻だけだった。
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コメント
ラージェマとヴェイダル博士って友達なのか。一緒にボードゲームしたりするのかな。
そういう友だち!?
どっちが勝つんだ!
古の神器にも劣るまいってなにげにスゴイこと言われてる。
博士のブリッツの性能は神器並み?
さすがに神器ほどではないですね。
神器の特殊効果無いバージョンには迫っているという感じです。
女神アズトラが頑張って用意した剣の封印を解いたことで人間に愛想を尽かした。取るに足らない存在だと思っていたら神から力を貰って強力な武器まで作り出した。人間のくせに調子に乗りすぎ!粛清!という流れですかね。そうなると武器を作っている人間も狙われる?
おおむねそんな動機です!
あとは人間なのに神の力を一部得ているところも目障りというか。
剣の封印を解いたのはおそらく宝剣を入手した教皇庁。
リガレア奥地の封印地で、どのような経緯と手段で教皇庁が宝剣を入手したかは謎。
自己の為に宝剣を利用する意図が見え透いており、罪というなら教皇庁こそ問われるべき。
強い力を持ったからといって聖女を狙うのは筋が違うのでは。
一方、獣魔の襲撃と聖女の天啓が始まり増加した事は時期が一致し、剣の封印を解いた事と関連があるとしたら
1.宝剣は獣魔を封印する
2.封印に消費していた力が解放された事で宝剣の力を別の事に利用可能
3.宝剣の力の影響で聖女誕生?
【聖女】が女性のみの理由
他の神器に対し名称が【アズトラの宝剣】女神アズトラ用として定義されている。
女神が使用する事で最大の効果を発揮し、又、女性に作用して天啓を引き出す。
同じ過ぎた力でも悪意を持って破壊を振り撒く獣魔より優先して聖女を目の仇にする謎。
封印を解いて宝剣を利用した事で聖女が法力を得たとしたら、ラージェマからしたら神々の神気を横取りして分不相応に強くなった様に見えるのかもしれない。
ゾルフレッド「女性が装備・使用する事で強力な効果を振るう「女性専用」神器を試作してみた。
誘惑の剣。光のドレス。……中でも神秘のビキニや天使のレオタードは水中呼吸を可能にし、水の抵抗・圧力を無効化する。
弱き人間の聖女に相応しい一品だ。是非ともセクシーギャルに、セクシーギャルにこそ着てもらいたい」
アズトラの宝剣は封印地から少し離れた海で漁師が見つけました!
お手柄漁師さん。
教皇庁も余計なことしてるんですが、ラージェマにとってはいつでも殺せる存在なのであまり気にならないみたいです。
>宝剣は獣魔を封印する
>女神が使用する事で最大の効果を発揮
アタリです!す、すごい。
>神々の神気を横取りして分不相応に強くなった
これもご指摘どおりですね。
いつでも殺せる存在としての愚かな人間は気にならないんだけど、自分に害を成せるほどの強さを得た人間は許せない、しかも敬愛する神の力によって強くなったとか言語道断!
的な…
ゾルフレッドが楽しそう笑
2回言ってるということはセクシーギャルじゃないと怒りそう。怖い!
漁師が宝剣を発見したという事は封印の綻びに人間は関わっておらず、冤罪なのでは。
海底資源の調査・掘削の影響で封印が破れたとしたら、人間の罪と見なされる。
宝剣が自然に抜け落ちたなら神々の不手際、獣魔が自力で封印を破ったのであればラーフェマは人より獣魔を討つべき。
封印の剣が抜けた事、宝剣の所在についてアズトラは知り得なかったのか。
また、獣魔神の封印が解けつつある事を知りながら神々は対策を講じなかったのか。
剣の封印が解けた事を知っているラージェマがアズトラの宝剣の在処を知らない等、神々と御使いは情報交換を行っていない模様。
対して、神器の在処を割り出し、能力について解説出来る程詳しい知識を得ているギルゼンスやオーゾレスの方が情報力では勝っている。
この地に天獣を放つ < 調和を乱すのは過剰な力を持つラージェマでは?
ゼレイクが魔導巨兵を設計した様に、リガレアでも魔導巨兵を生産/量産できれば対天獣の盾に使える?
獣魔の存在を野放しにしているのも気になる所。
>海底資源の調査・掘削の影響
おおっ!
>宝剣の所在
アズトラたちは別の次元に移動して、世界で起こっていることを細かく知らない状態なんです。
>神々と御使いは情報交換を行っていない
そうなんです!
ラージェマは神に命じられたことを愚直に守りながら、神去りし地に残っております。
情報に関しては御使い以上の存在は神器をそれほどありがたがっていないというのがありますね。
彼らは自分で行使力を使えますが、人間は使えないので、人間からすると魔法の道具みたいに見えます。
>獣魔の存在を野放し
実は目に付く大型獣魔は始末していたりします。
サブストーリーにアップされていた、凍りついた獣魔とか…わかりにくいんですけども。
ゼタ子ーっ生きとったんかワレ!
ゼタ子笑
生きてます!
全盛期ほどじゃないけど戦えます。
女神アズトラが宝剣で神獣を封印する
↓
剣の封印が解けて獣魔が出現
↓
ラージェマ「だめだこいつら」
三代獣魔もモブ獣魔たちも元は神獣と同一の存在だった?
Exactly(そのとおりでございます)
厳密には剣の封印は解けきってはいないんですけどね。
ラージェマは神が苦労して封印した神獣が人間のせいで自由になりかかってるのが許せなかった、という。
やっと5章がはじまったか・・・それはいいんだけど気になる点がいくつか。ギルゼンスとラージェマの関係。2人は共闘関係にあるようですがどのような経緯でそうなったのか?ギルゼンスはヴェイダルにブリッツの制作を頼みラージェマはわざわざ取りに行った?そこまでして共闘しないといけない理由なんなの?製作を依頼してから数カ月後に受け取りに行ったということですがラージェマはその間何をしていたのか。ギルゼンスは傷を癒やしていたんでしょうがラージェマはじっと待っていたのでしょうか?アズトラの宝剣がまだ聖女の手元にあることを知っているのになぜ没収しないのでしょうか?そしてもう一度その剣を使って獣魔を封印してしまえばいいのでは?リンカージェが新しいキャラクターのかませ役になってるのも納得いきません。登場した時は最強の聖女っぽかったのに?ラージェマは人間じゃないから今回は相手が悪かったとはいえ久しぶりに登場したかと思えば見せ場なし。あんまりです泣
けっこう張り切って書いてたので…イラストも用意できましたし、ここからはお待たせしないかなと!
◯ふたりの関係と共闘の経緯
ギルゼンス瀕死、ラージェマが通りかかりとどめ刺そうとする、獣魔の力を取り込むヤツまで出てきたしそろそろ聖女を滅ぼそう、ギルゼンスが聖女の数を減らすから生かせと交渉。
気に入らなかったら封印したらいいし、天獣の節約になるかも、というわけで共闘にいたりました。
◯制作時間
ラージェマはどのぐらいの兵器を作れるようになったか知りたかったので、ヴェイダルに発注します
ヴェイダルは御使いからの命令なので従ってブリッツをいろいろ作る
その間に瀕死のギルゼンスとラージェマが出会う
◯宝剣を没収しない・封印しないのはなぜか
神獣を封印する力は女神アズトラでないと使えません。
さらにふた振り足りません。
そのため、ラージェマからすると真の力を発揮できない神器、となり特に没収もしないでいいかと考えてます。
◯リンカージェ
かませではないのですが…ちょっと相手が悪かったですね。
神器持ちのゼタリリア+力を最大開放したリンカージェのふたりがかりになると、ラージェマでも無傷では勝てないので貴重な行使力を使って凍らせ、足止めしました。
リンカージェは行使力を知らないので、防ぐ手立てもありませんでした。
まあほとんど防ぎようないんですが…
リンカージェはこのまま型落ちして消えていくわけではないので、なにとぞ!
ギルゼンスはラージェマに殺されそうになったから聖女の数減らしに協力しているとしたら、邪魔なラージェマの排除に共闘を持ち掛ければギルゼンスを仲間に引き入れられる可能性も?
反撃を許さない程息をもつかせぬ波状攻撃で瞬間移動の回避を強いて、行使力を使い切らせる事が出来ればメンバー次第では勝負になり得る。
前提として、ラージェマを防戦に追い込む程有効な攻撃を大量に用意できるなら。
神器の断刃はブリッツの防御を断ち切る威力がありそうだし、犠牲無しに勝てるイメージが湧かない。
>ギルゼンスを仲間に引き入れられる可能性も?
>反撃を許さない程息をもつかせぬ波状攻撃
おおおっ!
まさにここですね。
ラージェマに勝つには不意打ちとか、想定外の攻撃が必要になると思います。
想定外という意味では義肢の手足を犠牲にできるゼタリリアがキーパーソンになりそうですね。同盟を組んだギルゼンスが臆面もなく裏切るとか。
マナグロアを屈服させる程、暴走したリンカージェのポテンシャルも未知数。
氷漬けもギルゼンスなら火力で打ち破れるだろうし、対抗できるかも…?
歴代最強キャラが結集して総力戦を挑むとしたら、ラージェマは第1部のラスボスみたいな存在でしょうか。
キャラ紹介の行使力で大型獣魔を氷漬けにした件はサブストーリーとすぐ結びつきましたが、コメントを書いている内に言おうとしていた事を忘れる事が多々あります。
ゼタリリアがまた四肢なしの状態に!?
でも聖女なら移動は足がなくても大丈夫なので…大丈夫って言い方もおかしいか。
ギルゼンスは相性的にもいい感じではあります。
ラージェマは一段落というか、聖女が倒せるかもしれない敵としてはほぼ最上位になりますね。
氷漬けの獣魔の話を書いたころにはラージェマの能力などもあらかた固まってました。
クールな氷属性のイケメンキャラが欲しいな、と。
ヴェイダル博士の技術の粋を込めた義肢をブリッツとして分離・射出。
不意を打てそうな一方、感応力を巡らせると内部に仕込んだ武装がばれそう。
和解に至らずラージェマが退場するとしたら、味方に知的美形クールが加わると良いですね。
ヴェイダルと被るか、リカードが可哀そうな扱いになるか。
ロケットパンチ!
これは熱い。
知的美形クールイケメン…
リカードはマッチョ系なので需要あるはず!
返答感謝です!
開業を入れないと読みづらいですね・・・
一点だけ。
–どのぐらいの兵器を作れるようになったか
これはどういう意味ですか?
技術的にどこまで進んでいるかを確認したかったということですか?
そうですね!
どのぐらい、が何を指しているかわかりにいですね…
これはご指摘どおり、人間たちがどのぐらいのレベルの武器を作れるようになっているのか、を確認していました。
それを確認したうえで聖女+ブリッツの力は御使いや神に届く、これはマズイと判断した流れになります。
リンカージェへの凍結は表面を覆うだけで手加減していますよね。
氷で動きを封じられる事を事前に知っていれば、空気の膜で熱を遮断して凍傷を防げるものの、気が付いたら身体の芯まで氷漬けだと防御出来ていない訳で。
液体窒素の様な極低温は短時間でも凍傷を起こす可能性がある。
深度による傷害には時間を要するので壊疽は無いはず。
本気の行使力だと時間を必要とすらせず瞬時に氷像化して粉砕、は無いと思いたい。
真空を維持した空間を作れば意識喪失、窒息。大気の組成を変えるだけで血中酸素低下により意識は無くなります。
呼吸しないラージェマに適した戦法ですが、若干地味。
ラージェマを包囲していた聖女達が次々に墜落していく。
聖女「何をした!?」 ラージェマ「お前達が知る必要は無い」
リンカージェは軽めに凍らせていますね。
全身を凍らせるのは結構神気を消費するので…
聖女なら回りの空気もある程度操作できるので、普通の人間よりは凍らせづらくなりますが、不意打ちされると厳しいですね。
真空を作り出す…恐ろしいですね!
バキの柳龍光的な攻撃もできたりして笑
最新型ブリッツを制作できる環境。
小さな村に隠れ住むという割に、暮らし振りは良さそう。
家族で幸せに暮らす家に戻っているリンカージェは今でも復讐が行動理念なのだろうか。
教皇庁が日常を脅かすならともかく、リンカージェの行動次第では大事な家族が不幸になるかもしれない訳で。
荒い落しても血の匂いが残っていたり、断ち切られた衣装を着替えられず帰ってきたら両親は気付くはず。
復讐者はテーマとして魅力的な反面、エザリスではリンカージェが味方に参戦し辛い。
リガレア、ヴァルネイでは共闘、エザリスでは敵対という構図も良いものの、何とか教皇庁の悪の巣窟部分を白日の下に引き摺り出して潰せないものか。
アズトラの宝剣が獣魔を再封印する為に使用者を求めて、女神に近い存在として女性を聖女に仕立てているのか?
斃し切れず封印するなら、封印が失われた場合に備えてセーフティ機能が備わっているかもしれない。
そんなに苦労はしていない様子です。
というのもまだブリッツの製造や研究に携わっているんですよね。
間に入っているのが弟子になります。
リンカージェは目標を失いかけていますが、教皇庁を排除してエザリスを獲ろうとしています。
ヴィゾアが弱っている今がチャンスではあるのですが…
そこにラージェマが乱入してきて思惑通りにはいきませんでしたね。