「さて、嬢ちゃんに借りができちまったね」
「あら、気にしないで。私とおば様の仲じゃない」
大げさに肩をすくめながら、ギルゼンスが言う。
「ってことで、私はこれで失礼するわ」
「待ちな」
グレイザはいつでも斬撃を繰り出せるよう、やや前傾の姿勢を取った。
確かめるように砂浜を踏みしめる。
「海上要塞じゃ大した暴れっぷりだったそうじゃないか。何を企んでんだい?」
「何も企んでいないわ。真の調和に向かっているだけ、よ」
「嬢ちゃんが皆の頭を押さえつけたうえでの『調和』かい?笑わせんじゃないよ。あたしの目が黒いうちは勝手なことはさせない」
「ふ…怖いわ、おば様。剣を下ろして」
ギルゼンスは砂浜を小さく蹴り、空中に浮かび上がる。
その両脇には黒いブリッツが音もなく展開された。
「ちょ、ちょっと待って欲しいニャ!聖女皇様は助けてくれたわけだし、何も今やりあわなくても…」
「眠いこと言ってんじゃないよ。本番はこれからさ」
テルザトの呼びかけにも答えず、グレイザは不敵に笑った。
長剣が青白い光を帯びていく。
「纏閃もあと一回は撃てる」
「くっふふ…やっぱり苦手だわ。暑苦しくてかなわないもの」
ギルゼンスは空中で背を向け、空へと飛び上がる。
「待ちな!…うっ!?」
追いかけようとするグレイザが、頭上から放たれた炎に巻かれた。
とっさに念動防御を展開している間に、ギルゼンスは雲に手が届くほどに飛翔する。
その姿は小さな点となり、雲の合間で高笑いだけが響いていた。
「グレイザ様…」
疲れ果てたゾティアスを背負い、アムネズが声をかける。
その声色には微かな戸惑いが現れていた。
「逃げちまったんじゃしょうがないね。帰るよ、あんたたち」
そうつぶやくと、グレイザはバイザーを外し、空を見上げた。
果てしなくすみ切った青空が、逆に言い知れぬ不安をかき立てる。
どこまでも広がる穏やかさの裏に、見えぬ危機が潜んでいるかのようだった。
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コメント
グレイザが健在な内はヴァルネイ内部での抑えはある程度効きそうですね。
気に入っている身内は無下にしないギルセンスが問題を起こすのは、顧みる必要が無い他国の方で…。
愛の巣に帰還したギルセンスを待ち受けていたのは、もぬけの殻と化した拠点だった。
テーブルの上には書置きが残されている。
『さようならギルゼンス様。愛しのコルディザ様の下へと参ります。貴女との、めくるめく日々は忘れません』
愕然とした表情のギルセンスが膝をつく。
「そんな…調教は完璧だったはず…。リガレアのコルディザ、恐ろしい娘…‼」
隠居してたのですがエルゼナグとともに復帰しました!
ギルゼンスはアムネズとかにはきついことはしないので。
なにっ
ギルゼンスの呪縛?から逃れられた…?
もうギルゼンス依存しきっているはずなのに。
しかし、コルディザならあるいは…
聖女BLITZという物語はいったいどこに向かっているのか笑
怖いものなしに見えるギルゼンスだけどオバサマは苦手なのか。戦えば勝てそうだけどな。
基礎的な戦力はギルゼンスが圧倒しているのですが、ラージェマを倒した突き型の纏閃はギルゼンスにも有効ですね。
なので、スキを見せたら一撃で必殺してくるので戦いたくはない、という感じです。
人間から見たスズメバチみたいな?
あとは個人的なグレイザへのリスペクトもありますので戦いは避けたいみたいですね。
ギルゼンスはグレイザのことを尊敬しているんですねー
なんだか意外です
基本、人を見下しているような性格ですが、ピンポイントでも尊敬できる部分がある人間は尊重してたりします。
誤字報告です
肩をすくめる・が方になってます
ああっ本当ですね!
ありがとうございます!
全然気づいていませんでした。
頭を押さえつけたうえでの『調和』
グレイザが言うとわかりやすい…
まあそう言ってしまえばそうなんですよね笑
グレイザは割とハッキリさせたいタイプなので、極端に聞こえる物言いもあるかとは思います。
ヴァルネイ共和国に獣魔が来てそれをギルゼンスが撃退した話があったと思います。その時にグレイザもいたんでしょうか。グレイザは国家元首としてのギルゼンスをどう思っていたのかが気になります。
何度か撃退していて、一緒に戦ったこともあります。
お互い戦力的には認め合っている関係ですね。
国家元首としては奔放だけどやることはちゃんとやってるな、ぐらいの印象ですね。
グレイザはあんまり政治には関心がなく、期待もしてなかったり。
なんとなーくだけどグレイザもギルゼンスとは戦いたくなかったのかなとか思ったり
どこか気に入っている部分もありますので、できれば避けたいけど…
というところですね。
でも看過できないほどに強くなっていますし、思想も危険なので。