城壁が砕ける轟音が夜の空に響きわたった。
粉塵が風に巻き上げられ、月明かりすらかすむほど視界が白く曇る。
その中から突き出してきたのは、巨大な金属製の拳。
まるで生き物のようにゆっくりと握りこぶしを作りながら、壁の破片を蹴散らしていた。
それは魔導巨兵の腕を基にして作られたブリッツだった。
破壊された壁を一歩越えれば聖女王ヴィゾアの居室へと続く通路がある。
「派手なご登場ね」
静かに立ちふさがったのは、大剣型のブリッツを構えた聖女ガルフィズだった。
その背後で、聖女パルヴァズが長い杖に隠れるようにして様子をうかがっている。
「ふん。たった2人で神に抗うつもりか」
重たげに金属の拳が地面に着地し、粉塵を巻き上げながら人影が姿を現す。
ウェーブのかかった水色の髪を優雅に揺らしながら、聖女コルゼティが通路へ足を踏み入れた。
「神ですって? 面白い冗談ね」
ガルフィズは軽く息を吐き、念動力で大剣を浮かせる。
「それで、なんの御用かしら」
一見落ち着いた調子だが、バイザーの奥の瞳には鋭い戦意が宿っていた。
「正義を成すにも力が必要だ。ひ弱な王など必要ない――この国は我が統治する」
コルゼティが言い終わる前に、空中に浮かんでいた拳型ブリッツがガルフィズ目がけて猛スピードで飛来する。
「パルヴァズ!」
ガルフィズは叫ぶと同時に地面を蹴り、ギリギリで拳をかわす。
パルヴァズが彼女に加速のバフ効果を付与していたおかげで、普段以上の速度で間合いを詰められるのだ。
風のような動きでガルフィズは大剣を振り下ろす。
しかし、もう片方の拳に防がれ、金属同士がぶつかる鋭い音が王城の廊下に響く。
「わわっ!?」
先ほどかわした拳が、今度はパルヴァズに襲いかかった。
必死で逃げ回るパルヴァズの姿を見て、ガルフィズは思わず息を呑む。
離れた場所にあるブリッツを、しかも複数同時に正確に操れるなど、常識ではありえない。
――まさかコルゼティの神器、メルサナトの王笏が念動範囲を拡張しているの?
ガルフィズの疑問をかき消すように、コルゼティの顔に冷徹な笑みが浮かぶ。
「ふふふ、見るがいい。これこそが神の力というものだ」
コルゼティが王笏をかざすと、赤紫色の宝石が不気味な輝きを増す。
すると、周囲に散らばっていた瓦礫がひとりでに浮かび上がり、いくつもの石片がガルフィズへ殺到する。
「くっ!」
ガルフィズは大剣の一撃で石つぶてを叩き落としながら後退する。
しかし間髪入れず、拳型ブリッツが手刀の形へと変化し、より鋭く突き刺すような攻撃を繰り出す。
衝撃でガルフィズの足元が崩れ、バランスを失いそうになる。
「このぉ~!」
パルヴァズは杖を振るい、ガルフィズに再度バフをかけるが、ふたつの拳が素早く連携し、ガルフィズを左右からはさむ形で追い込んでいく。
「どうした。中央の聖女とはこんなものか?」
コルゼティはあざ笑うように腕を組み、さらに念動力で瓦礫を飛ばして牽制する。
ガルフィズは必死に大剣で迎撃し、パルヴァズのバフ効果を受けながらかわすが、持ちこたえるのがやっとという状態だ。
猛攻の中で、ガルフィズは最短ルートで敵に接近するしかないと判断し、一気にコルゼティを目指した。
大剣を横薙ぎに振るうが、分厚い瓦礫が盾のように前へ突き出され、その刃を止められる。
「ふふ、惜しい惜しい」
コルゼティが勝ち誇ったように口元を歪めると、ふたつの拳が同時に開手し、ガルフィズとパルヴァズの体を握りしめた。
「う…ぐ…!」
二人は念動力で振りほどこうとするが、魔導巨兵の素材から作られた拳型ブリッツの握力は想像を超えていた。
全身の骨がきしむほどの圧力がかかる。
「さあ、出てこいヴィゾア! このままだと手下が死んでしまうぞ」
コルゼティは廊下の奥にある居室の扉へ、わざと大きな声を張り上げる。
その声に応えるように扉がゆっくりと開き、金色の光がこぼれ出した。
逆光の中で神々しいシルエットを浮かび上がらせる人影――それはほかでもない、聖女王ヴィゾア本人だった。
「その子たちを離しなさい。狙いは私でしょう」
ヴィゾアの声は透き通るほどに響きながらも、どこか威厳に満ちている。
「ようやくお出ましか」
コルゼティは腕を組んだまま、拳型ブリッツを引き寄せる。
ふたりを投げ捨てられたガルフィズとパルヴァズが床に崩れ落ち、荒い息をついて横たわった。
「貴様らの言う正義がいかに虚しいものか。じっくりと教えてやろう」
破壊された壁から差し込む月の光と、壊れた石材が散る廊下を背景に、コルゼティは残酷な笑みを浮かべていた。
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コメント
コルゼティつえー!ガルフィズはリンカージェだって退けたのに。しかもバフあり。ところでヴィゾアの怪我はもう治ったの?
強いぞコルゼティ!
ただの勘違い女じゃないんだぞ~!
ヴィゾアのケガはもう回復しています。
でも安静にしてる感じですね。
こんだけドンパチやってたのにヴィゾアは寝てた!?
ギリギリまで寝てました!
でもお陰で回復しましたよ。
近接パワー型と見せかけて、大型ブリッツ遠隔操作と多数の瓦礫を併用するコルゼティが強い。
メルサナトの王笏は神器といいつつ、操作数に加えて範囲を拡張する以外は極上アズカライトを備えたロッドと大差がない様に見える。
魔導巨兵の自重を支え振るう強大な膂力+法力+神器の握力だと、聖女の念動力では振り解けず掴まれたら終わる…。
逆光を作る金色の光<天獣は使役や騎乗の他、如何に戦力化するか。
ヴィゾアが現れてなお、姿を見せないジグナ。
狙撃で王笏の宝石を砕くか、遠くへ弾き飛ばせれば、オーバースペックの巨拳は取り回しが低下する。
正義 エザリス聖女の行動と志は正しいと予想できるものの、教皇庁が幅を利かせて支配する実情はおよそ正義とは程遠い。
しかしコルゼティの正義は彼女を神と崇める以上のプランを見出せないのが更に虚しい。
夜の闇に光り輝く金色の竜を無数の石礫が襲う。しかし天獣には傷一つ付かない。
「無駄よ。強固な神気の塊を念動力で鎧うこの【聖天竜】の守りは完全無欠。
天上の美に平伏し降伏なさ…」『オラァッ!』
天獣の胸部から彫像の如く浮き出るヴィゾアの顔に巨大な拳が叩き込まれる。
「完璧な防御を誇るこの【聖天竜】の唯一の弱点がこの剥き出しの顔と何故分ガッ…!?
グッ!…台詞の途中で攻撃するの止めなさ…ギャッ!」
近接パワー型なんですが、メルサナトの王笏のお陰で遠距離攻撃も同時攻撃もできる!
というシーンでしたが描写不足でした。
勉強します!
ガッシリつかまれているのでガルフィズたちは動けません。
パルヴァズもピンチ!
そこに現れたヴィゾアは新たな力を手に入れています。
ジグナは魔導巨兵を倒したぐらいですね。※絆の断章
それぞれが正しいと思っている正義にすがるのですが、誰にとっての正義なのかで大きく見解が違ったり、人が増えるとよりまとまらなくなったり…
難しいですね。
ヴィゾアがボコされている!
さすがコルゼティ…圧倒的パワーとスピードに加え、精密な動きができる。
そのうち時も止めそう笑
でっかいオニギリ作れそうッッッ!!!
勢いで笑ってしまいました!
「くくく…我がツナマヨを食らうがいい!」
にぎりしめて捕まえることもできるのかー。思ったより強いブリッツだぞ。
実は自由度が高かったりします。
でも重いし操作しづらいし、で他の聖女は選ばない系ブリッツ。
いつの間にか話が進んでいた・・・コルゼティは予想よりまともなボスキャラでした。てっきりもっと新興宗教ぽくいくのかとwエザリス王国自体にも問題は多そう。
そうなんです、この章も佳境であります。
新興宗教ぽいといえばぽいですけどね笑
エザリスもいろいろと問題はあります。