「なるほど。それで魔導巨兵の動力源である『結晶核』に目をつけたわけですか」
ヴェイダルが長いまつ毛を伏せた。
久方ぶりに訪れたリガレア帝国のゼルテナ魔導研究所で、ヴェイダルは長机の上に置かれた設計図を広げる。
そこには盾の形をしたブリッツが描かれていた。
「獣魔と融合したギルゼンスの力は圧倒的だ。今までのブリッツでは歯が立たん」
パルゼアが淡々と言う。
天啓を受けて以来、あれほど一方的な戦いは経験したことがなかった。
「あの黒いブリッツもヴェイダルさんが作ったんでしょう?だったら、弱点だって知ってるはず」
ルジエリは椅子から立ち上がり、長机をばん、と手のひらで叩く。
「弱点、ですか」
ヴェイダルは腕を組み、設計図に目を落とす。
「強いて言えば重さ、なんですが。あの方は軽々と扱っていましたからね」
徹甲弾を模した黒いブリッツは、貫通力を持たせるため、特に比重の重たい金属を使用している。
多くの聖女にとっては重すぎて速度が出せない代物だった。
「私と互角かそれ以上のスピードだった。じゃあ弱点なんてないってことですか?」
「ヤツのブリッツを上回るものを用意すればいい」
パルゼアが静かに制す。
設計図の丸いパーツを指さした。
「魔導巨兵の巨体を動かす結晶核を搭載し、より強力なブリッツを作る。それが可能なら、ヴェイダル。お前しか作れないだろう」
「そんなことありませんよ。今やリガレア帝国には優秀な技師がたくさんいるはず」
小さくため息をつきながら、ヴェイダルは天井を見上げた。
師匠であるラディエの元で、ゼレイクとともに学んだ日々を思い返す。
結晶核を小型化し、ブリッツに搭載する――
理論的には可能だ。
神気を宿した結晶核はより大きな力をブリッツに与えるだろう。
「資金はこちらで用意する。存分にやるがいい」
そう言い放つとパルゼアは靴音を鳴らしながら部屋を出る。
しずかに立ち上がるヴェイダルの両目は、確かな決意をはらんでいた。