歪んだ世界

遥か昔、神々がまだ世界を治めていた時代――
空は今よりも青く澄み、大地には緑があふれ、川は清らかに流れていた。


そんな美しい世界の均衡を保つ役目を担っていたのが、神々だった。

闇より出でし獣の神――ガルズレムは、どんな傷も瞬時に治してしまう驚異的な再生能力を持っていた。
その力は死すらも無意味にし、真の不死の存在として他の神々からも恐れられていた。
しかし、ガルズレムは自らの力を世界のために使っていた。
自然の秩序を守り続けるために。

だが、時が過ぎるにつれて、世界は大きく変わり始めた。
智慧神イオクスは人々に文字と学問を授けた。
戦神ゾルフレッドは鍛鉄を伝え、女神アズトラは美の概念を広めた。
三神の導きにより、人間の文明は目覚ましく発達していった。

村は町となり、町は都市となる。
石造りの神殿が建ち並び、美しい彫刻や絵画で飾られた。
人々は文字を覚え、書物を記し、知識を蓄えていった。
鍛冶の技術が進歩し、鋭い剣や頑丈な鎧が作られるようになった。
しかし、その繁栄の陰で、世界の均衡は静かに崩れ始めていたのだ。

都市を建設するため、森が次々と切り倒された。
神殿を造るため、山が削られ、石が運び出された。
美しい装飾品を作るため、川から砂金が取り尽くされ、海からも資源が根こそぎ採取された。
より大きな都市を、より美しい神殿を、より鋭い武器を――
欲望は際限なく膨らみ続ける。

そして人々は三神を心から讃え、感謝の祈りを捧げた。
各地に立派な神殿が建てられ、毎日のように供え物が運ばれた。
祭りの日には、街中の人々が神々の名を叫んで踊る。
この熱烈な信仰と崇拝により、三神の力はさらに強大になっていった。
人々の信仰心が神々の神性を高め、より多くの奇跡を起こすことを可能にしたのだ。

イオクスの知恵はさらに深まり、ゾルフレッドの武勇はより輝き、アズトラの美しさは一層高い次元へと押し上げられた。
三神はその増大した力で、人間たちにさらなる恩恵を与える。

しかし、この好循環の陰で、自然への配慮は次第に忘れ去られていった。
神々は人々からの崇拝が集まり、神性が高まることを最優先とし、世界全体のバランスを見失いつつあった。

山は本来あるべき姿を失い、川はその形を歪められる。
そして、森は切り開かれて農地や牧場に変わりゆく。
海は船の往来で濁っていった。

ガルズレムは、その全てを感じ取っていた。
世界が本来の姿を失いつつあることを。
神々が善意で行っていることが、結果として自然の秩序を歪めていることを。

三神の繁栄をもたらす力と、自然の復元力の間に生まれた大きな溝。
ガルズレムの心中で、怒りにも似た感情が燃え盛っていた。
神々の統治こそが、世界を破滅に導いている。
そしてついに、神獣は行動を起こした。

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混沌の始まり
世界を本来の姿に戻す。 そのためには、まず神々の作り上げた秩序を破壊しなければならない。

コメント

  1. 匿名 より:

    神も一枚岩ではないからな…
    オーゾレスの言う『神代』というのは神々が収めていた時代のことですよね。
    そうなるとガルズレムはその神代を破壊しようとした神?
    それともそのやり取り?も含めて神代なのか。

    • akima より:

      そうなんですよね。
      神々も個性派ぞろいなので…
      オーゾレスが目指しているのは三神やガルズレムたちが世界のバランスを取っていた時代ですね。
      その後は人間たちが支配する世界になりましたので、それを否定している感じです。

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    敵である者が正義だったパターン。
    当初は凶悪な性質と思われたガルズレムの行動の根幹に善意がある。
    司るものが不明だったアズトラは美の女神だったのか。
    船の往来で海が濁り海底資源を取り尽くす場合、相当機械文明が発達した段階になる。
    装飾品用の珊瑚や真珠を指しているのかもしれないが。
    己の利益最優先の神々が人間臭くて実に良い。

    • akima より:

      凶悪は凶悪なんですが、自然のバランスを守るという大役もあったりします。
      アズトラは美と正義の女神、ということでヴィゾアの神バージョンみたいな存在です。
      当然自分が正しいと思っているところも一緒…
      海底資源は天然ガスとかそういうものではないですね笑
      主に鉱物資源になります。
      それだって相当文明が発達してますけどね。

  3. 匿名 より:

    信仰と崇拝がなかった時の3神よりガルズレムの方が強そう。
    不死と恐れられていたということは神も死ぬ存在なわけね。

    • akima より:

      信仰&崇拝がもたらしたパワーアップでガルズレムを封印できたみたいなところはあります。
      そこはガルズレムもわかってるので、人々の信仰を破壊しようとしていました。
      神も大怪我すると体を維持できず、ラージェマのように消えてしまいます。

  4. 匿名 より:

    三神は信仰を集めるのが目的になって自然を顧みなくなった
    ガルズレムは自然を守ろうとした
    つまりガルズレムの方が正しい…ってコト?

    • akima より:

      見方によりますかね。
      地球全体で見ればガルズレムの方が正しいかもしれません。
      人類にとってはそうでもない。
      人類も自然の一部と考えたら、環境汚染するから消す、ってのも極端ですよね。
      なのでいつも通り、どっちが正しいとかではなく程度問題だよね的な結論になると思います。