「あなたと一緒にブリッツの開発ができるなんて光栄です」
ゼルテナ魔導研究所の所長を務めるセトラが爽やかに微笑んだ。
赤い髪が朝日にきらめき、肩までの長さでふわりと揺れる。
日に焼けた頬に白い歯の笑顔。
明るい茶色の瞳がまっすぐヴェイダル博士を見つめている。
「ああ。よろしく」
「それにしても、ブリッツに結晶核を搭載するなんて……思い切った計画ですね」
窓から差す陽の光が設計図を照らす。
ふたりは長机を挟んで向かい合わせに座った。
「先日パルゼア様が戦ったのは三大獣魔の一体である、ダルガロスだ。他にも大型獣魔が複数で海上要塞に現れた経緯がある」
「たしかに。最近、獣魔の動きがさらに活発になっていますよね」
長机の上で手を組み、セトラは目を伏せた。
「いったい何が狙いなんでしょうか?」
「それは…僕にもまだわからない」
「奴らは執拗に宗教施設を狙っている。そこに何かしらの理由があるんじゃないでしょうか」
セトラは鋭い視線を投げかける。
ブリッツの開発者というだけでなく、生物学にも長けたヴェイダルなら、獣魔の狙いにも気づいているのではないか――
そんな思いが見て取れた。
「……これは僕の憶測だけど」
観念したようにヴェイダルがつぶやく。
目の前の青年はリガレア帝国の兵器開発を任されているだけあって、優秀なようだ。
生半可な説明では納得しないだろう。
ヴェイダルはすでに、獣魔の因子を利用した人体の修復手術まで手掛けている。
「獣魔たちは人々の『信仰』を破壊することなんだと思う。それも、特定の神々へのね」
「ゾルフレッド、アズトラ、イオクス。この三神への信仰ということですか」
セトラの問いに疑念は見えなかった。
この聡明な青年はすでに答えにたどりついていたのだ。
事実、三神を祀った宗教施設が狙われ、被害にあった人々の多くもその信望者ばかりだった。
「おそらく。古代、三神は人々の信仰によって神としての力を高めたと言われている。獣魔は人々の信仰を破壊し、神の力を弱めるのが狙いなんじゃないかな」
「ということは、獣魔をけしかけているのは、かつて三神によって封印された神獣……」
セトラが息を呑む。
今、世界を混乱に陥れている獣魔は、おとぎ話とされていた伝説につながっているのだ。
「そう。神獣ガルズレムこそが、獣魔を生み出した元凶なんだ」
ヴェイダルの声が静かに部屋の中で響く。
それは確信に満ちた言葉だった。
コメント
つまり、森で遭遇した青年は3神の信者じゃなかったから見逃された…ってコト!?
おおっ…
サイドストーリーなのに覚えてもらっていて嬉しいです。
土着の神を信じていたので獣魔の攻撃対象外だったんですね。
まあとばっちりというか、巻き込まれたりはあるんですが…
獣魔=凶暴かつ獰猛で人間だけでなく、動くものすべてを攻撃する。
↑初期設定では3神の信者以外も攻撃する記述だった様な…?
ある程度知性が高い上級獣魔は襲う相手を選ぶ様になるとか。
コルゼティの神の信者も見逃されたり、勢い付いたコルゼティの神も力を増してより強い法力をもたらす?
うーん、そうですね。
動くものすべてを攻撃、だと建物は破壊されないですもんね。
かなり最初期の設定なんだけどなあ、また見直さなくては…
コルゼティが信仰を得てより強化する構想もあるのですが、話が斜めに進んでいくのでひとまずメインを進めています笑
なんでまだわからないって言ったんだろう。
パニックになるから?
そうですね。
確信はあったものの、見てきたわけじゃないですし…
ヴェイダルはアズトラの宝剣が封印に使われていたことを知っていたんですね。
なので、その後に獣魔が現れたのでつながりがあるんじゃないかと考えていました。
三神は別次元に行った。
別次元に人に相当する民がいたとして、信者から精神力を得られるなら作中で描かれる世界の人々からの信仰は必要なくなる。
神々が居を移した別次元に信仰を得られる民が存在せず、パルゼア達の世界から届く信仰に依存するならパルゼア達の世界で神威を発揮して信仰を集める方が都合が良い。
次元を隔てて信仰のエネルギー?が伝達される謎原理がファンタジーならでは。
ヴェイダルが去った後の所長セトラも劣らず優秀。
外見描写に費やす長さが美形を物語る。
遂に明らかになった神獣の名。
本筋に迫る七章は続きが特に楽しみ!
信仰を集めて、十分集まったからより高次元の神となった。
でもこの世界で信仰が薄まると高次元に居続けるのが難しくなる…
かといって人間の世界には戻りたくない。
というわけで、聖女に代わりに戦わせている、という感じですね。
セトラくんは非常に優秀ですので、ふたりならきっと結晶核の搭載も成し遂げてくれるはず!
聖女の存在意義。
信仰が薄まらない様に、神の代行者として天啓を授け活躍させる。
神が去って信仰が弱まって来た事と獣魔の襲来が重なった為、聖女を誕生させた。
女性のみである理由は依然として謎。
しかし、高次元とやらがどんな場所かさっぱり分からない。
人間の世界に戻りたくないと思わせる程魅力ある環境なのか、人間そのものに嫌気が差しているのか。
内心滅ぼしたい程ウンザリしているものの、信者がいなくなるのも困る、とか
高次元はまるでナゾですね。
そこはもう、神の領域なので…
人間の世界にはもう戻るつもりはないようです。
そこに居られるからこそ高いレベルの神と言える、というか。
お、いよいよ佳境ですね!
教会が壊されていた描写がやたら多かったけどそういう意味だったのね。。
ついに神獣がお話に登場!
神殿ごと壊して人々の信仰そのものを破壊したかった、ということなんです。
あんまり何でもかんでも作者がバラさなくていいと思うけどなぁ
想像の余白が必要ですかね。
たくさん設定があるのでスキあらば語ってしまう…