「ふーん、オーゾレスには逃げられたわけか。んで、俺になんの用だ?」
赤く短い髪が風に揺れる。
鉛色の空を背景に、渡り鳥の群れが城壁の上を優雅に旋回していた。
かつてフィデア領だった城塞の屋上では、ゼハインとパルゼア、そしてルジエリが向かい合っていた。
「ヤツの狙いだ。お前なら知っているだろう」
「なんでそう思う?」
パルゼアに問われ、ゼハインはゆっくりと腕を組んだ。
「だってあなた、人間じゃないでしょう?」
ルジエリが短く言い放つ。
神器をたずさえ、数々の禁術を操り、空間を転移する。
たとえ聖女であっても、そんなことが可能とは思えなかった。
「人間じゃないなら何だって言うんだ?」
「おそらくは神か、その眷属だろう。聖女に化けてリガレア帝国に潜入し、我々を監視している」
パルゼアが迷いなく言い放つ。
「ふははっ! 監視、ねえ」
空を仰いでゼハインが笑う。
「ゾルフレッドが兵隊を探してるんでな。めぼしい人間を物色してたんだよ」
意外な言葉にパルゼアとルジエリは言葉を失った。
戦神ゾルフレッド。
リガレア帝国の象徴とも言える、力の具現。
神話の中でしか聞いたことのない名――しかし、ゼハインの言葉には真実味があった。
「兵隊って、なんの話? やっぱりあなたも神なんだね」
「ま、いいじゃねーか、俺のことは。オーゾレスのことが聞きたいんだろ」
質問を浴びせるルジエリに向かって、ゼハインは指を立てて制した。
「ヤツの野望は知ってるか?」
「ふん。神の時代を作るとか、そんな与太話だろう」
「その通り。ヤツはこの世界を、かつて神が統治していた時代――神代にすることを目指してるんだな。だが、もう三神はこの世界を去った」
ゼハインは神妙な面持ちで、遠い空に目をやった。
渡り鳥の翼はわずかな光をとらえてはきらめき、まるで空に描かれた絵画のようだった。
「でも、他の神ならあなたがいるじゃない」
「これは仮の姿だ。神の行使力で人間をかたどっているに過ぎないんだよ。しかし、女の体ってのは慣れねえな」
腰に手を当て、ゼハインは自分の身体を見下ろす。
ルジエリはその挙動をいぶかしげに観察していた。
「神がこの世界に戻ることはないのか?」
「さて、な。だが、神ってのはこの世界にまだ残ってんだぜ。例えば、こっからずっと北の方にもな」
「――封印地リトグナね」
バイザーの下でルジエリは目を細める。
かつて女神アズトラによって神獣が封じられたとする地。
「そうだ。オーゾレスは神獣ガルズレムの封印を説き、新しい神代を作るつもりだ」
城壁の上空を旋回していた渡り鳥の群れが、突如として乱れた。
彼らは追われるように慌ただしく飛び立ち、不穏な静寂だけを残した。
コメント
ゼハインはもともと男の神?
ここでTSをブッ込んでくるとは・・・
そうです、実は男性の神なんです。
行使力で聖女になってるのですが…
これもTSモノというのでしょうか☺
>だが、神ってのはこの世界にまだ残ってんだぜ。例えば、こっからずっと北の方に「も」な
北の方にな、じゃなくて
北の方にもな
つまりガルズレム以外にもこの世界に残っている神はいるということ
スゴイ☺
細かいところまで読んでいただけて嬉しいです。
そうなんです、この世界にまだ神はいたりします。
そこ描写するとメインが進まないので、サブストーリーで登場させようかと思ってます!
重要な情報が解禁され、いよいよクライマックス。
黒幕が大ボスの封印を解く王道展開が堪らない!
かつて封印した神獣が解き放たれる事について、ゼハインは問題にしている様子がない。
世界を去った3神は損害を受けず、上手く事が運べば優秀な兵を見出せる。
神獣相手に聖女が窮地に陥っても、ゼハインが知恵や神器を授けるなり、戦死した聖女の魂を回収するなりできる。
神獣が復活するとなると、御使いが味方に付く展開もあり得る。
ゼハインが三神として指示を伝えれば、より多くの眷属を動員できる。
オーゾレスは初登場時から、なんとなく黒幕っぽいな…と考えてまして。
そのまま勝手に動いて今のような物語になりました。
ゼハインはガルズレムが復活しても特に困らない様子ではあります。
強い聖女を見つけてゾルフレッドの元に連れて行く気かもしれません。
御使いが仲間になれば大きな戦力になりますが、人間が勝手に復活させたという見方もできるので…うーむ。
行使力もあるので神であることは確定
禁術うんぬんより空間転移だけでオカシイのよこのおかた
オーゾレスの狙いを知っていながら止めないのはいったいなぜなのか
借りにも神なら人間たちのために…ってこの世界の神は人間のことなんて何とも思っていない可能性がある
そうですね、この世界では瞬間移動できるキャラは他に登場しませんので
今のところですが…
ゼハインはいざとなれば今の体を消して元の世界にも戻れます。
なので、この世界で起こっていることは仮想空間の出来事、ぐらいのノリですね。