揺れる天秤

純白のドレスが、静かな風に吹かれてふわりと揺れる。
バルコニーから見える景色に溶け込み、まるで時間すら止まったかのような、穏やかなひとときだった。

綺羅びやかなジュエリーに、金の装飾がほどこされた王座。
どれもイズデイルにとっては馴染のないものだった。
神獣との戦いから十日以上が過ぎたが、いまだに心は落ち着かない。

「なんだか居心地が悪そうね」
イズデイルが顔を上げた先には、ガルフィズが優しく微笑みながら立っていた。
「ええ。ボク…私が王だなんて。まだ受け入れられません」
か細い声でイズデイルが言う。

教皇庁の司祭たちが殺害され、聖女王ヴィゾアを失ったエザリス王国は混乱におちいった。
コルゼティのように反乱を起こす者が現れてもおかしくはない。
新たな国の指導者が求められていた。

ガルズレムとの戦いにおいて、神器をたずさえ、聖女たちを守ったイズデイルが候補に挙がったのは、ごく自然なこととして受け入れられた。

イズデイルはゆっくりと城内に戻ると、王の間を見わたす。
――ヴィゾアはどんな想いであの玉座に座っていたのだろう。

永遠の平和が約束された王国とうたわれた日々はもう遠い。

「ヴィゾア様は道を誤ったのかしら」
背後から、ガルフィズがぽつりとつぶやく。
それはふたりだけだからこそ自然に出た言葉だった。

「わかりません……しかし正義といえど、それを成す力がなければ意味がない。ヴィゾア様は命を賭して教えてくださった。ボクはそう考えています」

自らを女神の体現と信じ、神獣との戦いに身を投じた聖女王。
天獣を取り込むことに抵抗がなかったとは思えない。
それでも、正義を成すための力を欲した。

私欲からではなく、王国の未来のために。

ヴィゾアとは違ったやり方で、ヴィゾアの望んだ王国を創る。
それが新王となったイズデイルの目標だった。

「あなたならきっと王国を立て直せるわ。私もそばにいる」
「…ありがとう、ガルフィズ」

王の間に差し込む柔らかな朝日は、新たな一日の始まりを告げている。
窓の外には、これから訪れる試練に立ち向かうエザリス王国の未来が広がっていた。

コメント

  1. 匿名 より:

    う~ん。白いドレスに金属の目隠しが合ってないような…
    目隠しが大事な作品だってことはわかってますけどこのシーンで目隠ししてるのは不自然じゃないかな…

    • akima より:

      そうですね~
      ベルナズのサブストーリーのように、普段着用のバイザーも考えたのですが…
      ふたりだし戦ってもないし、とシーンと合わないのはよろしくないですね
      かねてからご指摘いただいてましたし、本筋も一段落したのでバイザー無しも考えてみたいと思います!

  2. 聖剣の目隠し乙女 より:

    イズデイルが次期女王?
    先代ヴィゾアやディフェンダー女帝パルゼアから相当見劣り…。
    ギルゼンス➔アムネズの場合、パワーダウンしても強く率いる覇気を見出せた。
    イズデイルは神器でバリアを展開した功績の他は、吹き飛ばされたり精神的な頼りなさが目立つ。
    平和な時代には善き心を持った名君になり得ても、乱世のBLITZでは心許無い。
    ヴィゾアは歪んで人心が離れる恐れがあったので、ガルフィズを始め周りが支えるイズデイルはある意味正解なのかもしれない。
    火力型が少ないエザリスにおいて、攻撃の要ヴィゾアが抜けた穴は大きい。

    • akima より:

      メンタル的にはちょっと頼りないですね。
      しかしガルフィズや他の聖女に助けてもらいながらなら、なんとか…
      ジグナとか。
      ご指摘どおり平和な世ならいいかもですね。
      ちょっとやさしすぎるかもしれませんが、他に適任がいないというのもあります。

  3. 胸盛警察 より:

    作中で最大だったはずだ!目を覚ませ!

    • akima より:

      最大☺
      最初もっと盛ってたんですが、それこそシーンに合わなかったんですよね…
      なのでコルセットとかで押さえてるという感じでお願いします。

  4. 匿名 より:

    大物と最前線で戦い続けて生き残ったイズデイル優秀

    • akima より:

      激戦続きでしたからね、ちょっと休んでもいいぐらいなんですけども。
      新しい聖女王として頑張ってもらいます。