夜明けの空は、どこか不穏な気配を漂わせていた。濃紺から紫色へと変わる空には、重く垂れこめる暗雲が広がっている。かすかな赤みが雲の隙間から漏れ出し、まるで空が血を滲ませているかのようだ。
ユゼルテスが5歳の時、平和だった街が突然、海から現れた獣魔の群れに襲われた。獣魔たちは猛然と街を蹂躙し、人々は逃げ惑い、絶望に満ちた叫び声が響き渡った。幼いユゼルテスは、自室のベッドにうずくまり不安と恐怖の中で泣き続けるしかなかった。
魔導巨兵の設計者であるユゼルテスの母、ゼレイクは自ら開発中の一機に乗り込んで獣魔との戦いに臨んだ。
獣魔には中型のものも混ざっている。明らかに魔導巨兵の試作機で追い払える群体ではなかった。
それでもゼレイクは家族と街の人々を守るため、命を賭して戦い続ける。その勇敢な戦いにより、なんとか獣魔の群れを倒すことができたが、彼女自身も命を落としてしまった。
ユゼルテスは魔導巨兵の操縦室で倒れる血まみれの母の姿を目の当たりにし、失意の中で泣き続けた。
その後、親戚の元で暮らすことになったユゼルテスは、自らを鍛えることを決意した。母の勇気と犠牲に報いるため、彼女は一日も休まずに鍛錬を続ける。
10年間、彼女は辛苦を乗り越え、鍛錬の日々を送った。しかし、いくら鍛えても自分の体が大きくならないことに、ユゼルテスは深い悔しさと苛立ちを覚えていた。彼女は華奢な体つきを呪い、力不足を感じていた。
ある日、ユゼルテスは怒りにまかせて身の丈ほどもある槌を岩に叩きつけた。それは純粋な怒りの体現だった。
その瞬間、彼女をやさしい光が包み込む。慧神の天啓により、彼女は神から念動力と感応力を授けられた。
ユゼルテスの念動力は特別で、並の聖女の3倍以上の重量物でも自在に操作できた。法力を手に入れた彼女は、特注で作らせた槌型のブリッツを2機操り、獣魔との戦いに挑む。
ユゼルテスは戦いの中で、母ゼレイクの勇敢な姿を常に胸に刻んでいた。彼女が戦う理由はただひとつ、母が命を賭して守ったものを守り抜くことだった。
舞うように獣魔を叩きのめすその姿は、戦場に咲く銀色の花のようだった。
ある日、ユゼルテスは巨大な獣魔と対峙する。他の獣魔とは一線を画す強大さを誇り、街の人々を恐怖に陥れていた。ユゼルテスはその獣魔に立ち向かうべく、槌の柄を握りしめた。
彼女は母の教えを胸に、獣魔に向かって突進し、獣魔に連打を浴びせた。
激しい戦いの中で、ユゼルテスの体は疲弊し、法力を使い過ぎた代償として目と耳からは鮮血が垂れていた。しかし、彼女の心には決して揺るがない信念があった。
母が命を賭して守った街と人々を、自らの手で守り抜く。それが彼女の使命だった。ユゼルテスの一撃一撃は、母の意志を継ぐ者としての誇りと決意に満ちていた。
ついに、ユゼルテスの渾身の一撃が獣魔の頭部を砕いた。
巨体が崩れ落ち、静寂が戦場に訪れる。ユゼルテスの瞳には涙が浮かんでいたが、それは悲しみの涙ではなかった。母の正しさを、自らの力で証明できたことへの涙だった。
戦いに臨む前、ユゼルテスは天を仰ぎ、心の中で母に語りかける。
「あなたが残した勇気と誇りを、今この場に示す」と。
念動力で操作された槌が、うなりを上げて獣魔の骨を粉砕する。彼女だけの聖戦は、母の意志を受け継ぐ者としての使命を果たすために続いていく。
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コメント
魔導巨兵は古代フィデアで製造、現代の戦争用に蘇らせ、稼働している実機は近隣諸国へも輸出された。
機械仕掛けの魔導巨兵はフィデア皇国で生産と考えていましたが、ヴァルネイでも開発していたのですね。
かつてルモリカ遺跡で造られた魔導巨兵が深淵の像を守護。
人と他の生物を融合させる研究。<神獣の存在を知らなければ、こちらを獣魔の祖とミスリードしがち。
古代フィデアに劣らない技術力を感じさせます。
技術的な交流があるのでフィデア以外の国でも作られています。
ただ、コアになる部分は伝えられていなかったり…
自動車みたいな感じでしょうか。
古代にも技術は発展していたのですが、一度廃れてしまいました。
男の活躍が少ないという意味では、自ら設計した魔導巨兵に搭乗して戦ったのはユゼルテスの母より父の方が良かったのでは?
女性キャラの能力がインフレする昨今の作風では、戦死の散り様は男にこそ相応しい最後の華と思えます。
娘のために戦うお父さん、やっぱりかっこいいです!
モチーフとしては最高かも。
ただ、ユゼルテスの場合はお母さんが勇敢だったんですね。