黎明の熱戦

穏やかな朝は、突如として恐怖に染まった。
不気味な咆哮が村の空を震わせ、リガレア帝国のはずれにある小さな村は燃え上がるような熱気に包まれる。

現れたのは、黒い鱗におおわれた中型獣魔ティーガレス
巨大な体躯から漏れる炎が周囲の空気を揺らし、地面を踏みしめるたびに大地が震えた。

住民たちは家々に逃げ込み、ただ怯えるしかなかった。
その広場に、一人の少女が静かに立ちはだかる。
聖女としての力に目覚めたばかりのリンカージェは、手にした大剣型ブリッツを念動力で軽々と操っていた。

――リンカージェ、本当に大丈夫なの?
少し離れた位置でその様子を見守るゼタリリアは、不安げにつぶやく。
加勢しようと身を乗り出すが、ふと動きを止めた。

「信じるわ。力を見せて」
ゼタリリアは見守ることを決意した。
リンカージェの構えには無駄がなく、その落ち着きは若いながらも確かな実力を感じさせていた。

ティーガレスが咆哮と共に前足を振り上げる。
その爪は鋭く、振り下ろされる一撃は地を裂くほどの威力だった。
リンカージェは微動だにせず、感応力で爪の軌道を正確に読み取ると、寸前で最小限の動きでかわした。

しかし、ティーガレスは続けざまに攻撃を仕掛ける。
牙が光を反射しながら迫り、重い尾が振り抜かれ、大地を抉った。
リンカージェはそのすべてを冷静に受け流し、念動力で空中に浮きながら間合いを取り直す。その姿は、まるで風のように流麗だった。

「よくやってるわね。でも……」
ゼタリリアの心は落ち着かない。
この危険な戦いの中で、大切な娘が力に飲まれるのではないか――その想いが彼女の胸を締め付けた。

ティーガレスが最後の猛攻とばかりに、全身を震わせて大振りの爪を叩きつける。
だが、リンカージェはそれすらも冷静に誘っていた。
感応力で動きを読み切り、かわすと同時にブリッツを振り抜く。

「これで、終わり」
小さくつぶやいた彼女の大剣は、見事にティーガレスの硬質な外皮を斬り裂き、その巨体が崩れ落ちた。熱気が一瞬で引き、静寂が村を包む。

ゼタリリアは静かにたたずむリンカージェの背中を見つめた。
その成長した姿に頼もしさを感じながらも、同時に不安も拭えなかった。

「本当に強くなったわ。でも、その力がいつか――」
母としての複雑な感情を抱きつつ、ゼタリリアは娘の無事に安堵する。

リンカージェはゆっくりと振り返り、村人たちが隠れる方角に目を向ける。
小さく微笑むと、再び前を向いて歩き出した。
獣魔を圧倒した彼女の姿には、確かな成長と使命感が漂っていた。

コメント

  1. 聖剣の目隠し乙女 より:

    最小限の動きで見切り回避、一撃のみで決着。
    無駄な動きを見せず、静かに圧倒する強者演出が見事です。

    二挺拳銃をバンバン乱射したリ目まぐるしい情報量ばかりがもてはやされる現代ですが、ただ一発の銃弾で勝利する早撃ちや居合抜刀など達人の戦い方にこそ強い魅力を感じます。

    • akima より:

      達人っぽい戦い方でいいですよね。
      二丁拳銃もロマンですけど…
      中二病に嫌いな人はいないんじゃないってぐらいに笑

      居合系はかっこいいので出したいんですよね。
      そうなるとエイシュ編を書かねばならず、もう少し先になりそう…でも早く書きたい。

  2. 匿名 より:

    デビュー戦で中型を一撃破壊は強すぎるんよ

    • akima より:

      ゼタリリアも相当強い方でして、血統的にとても優秀な聖女です。
      さらに獣魔の力もあり、他の聖女よりもかなり強めになっています。
      ただその分、危険性もあったり。

  3. 匿名 より:

    お正月中は更新お休みでしょうか?
    Xで見つけて少しずつ読み進めています。
    来年も楽しみにしています。

    • akima より:

      帰省しておりました!
      ありがとうございます!
      Xも少しずつ見てもらえるようになりまして、嬉しい限りです。
      最初は一日に50~80ぐらいでした笑
      今年もよろしくお願いいたします!

  4. 今年もよろしく。 より:

    次の章で登場予定の母娘ですね。このタイミングでサブストーリーが追加されるということは次章スタートも近いと予想。

    • akima より:

      プロットは完成しました!
      さらにプロローグの1話、ラージェマの3話、ラスト近辺の1話も書けていますので、3~4割ぐらいはできました。
      近い内に開幕させたいと思います!

  5. 匿名 より:

    教えて欲しいのですが人物と剣は別々に加工しているんですか?