天上の煌龍

海上を吹き抜ける乾いた風が、剣呑な気配を運んできた。
透き通るような青空の下、巨大な影がゆっくりと降下してくる。

その正体は黄金の鱗をまとった、龍のような姿をした天獣ラズナンド。
背には白い衣をまとい、大剣を携えた銀髪の男、ラージェマの姿があった。

「あれが伝説の…まさか実在するなんてね」

グレイザはバイザー越しにその神々しい姿を見上げる。
手のひらに汗がにじむのを感じた。
息をひそめる仲間たちの間に緊張が走る。

ラズナンドは砂浜に影を落としながら降り立つと、ラージェマはその背から悠然と飛び降りた。
白い衣が陽光を受けてまぶしく輝く。

「ようやく出迎えか。聖女よ」
乾いた風が彼の声を運ぶ。

同時にラズナンドがうなり声をあげながら一歩、前に出た。
その右目には短剣が突き刺さったままだった。

「あれは――!」
グレイザの髪がわずかに逆立つ。
柄の部分にあしらわれた、ヴァルネイ共和国の紋章。
聖女ジュレインの短剣に違いなかった。

「こいつが…あの子たちを!」

グレイザの全身から殺気があふれ出し、ゾティアスたちも戦闘態勢を整える。

テルザト!」
「まっかせろニャ~!」

ゾティアスの声に応じてテルザトが杖から法力を放つ。
淡い光が仲間を照らす。

ゾティアスとグレイザは体が軽くなるのを感じていた。
テルザトは一歩下がって目を閉じ、杖を掲げてふたりの支援に集中する。

「おらぁあああああ!」
ゾティアスが大鎌型ブリッツを振り上げ、天獣へと突進した。

鋭い刃がラズナンドの脚に迫る。
硬質な外皮に衝撃音が響き、天獣が咆哮を上げた。

グレイザはすかさず長剣を構え、ラージェマに向かって感応力をめぐらせる。
動きはない。
少し離れた高台から様子を見ている。

「高みの見物ってやつかい。だったら先に仇を討たせてもらうよ」

ラズナンドは鋭い爪と牙による波状攻撃を繰り出していた。
さらに、風切り音とともに鞭のようにしなる尾が舞う。

いずれも聖女の体を簡単に引き裂くほどの威力だ。
しかし、グレイザは短剣が刺さったままの右目側に回り、死角から鋭い斬撃を叩き込んだ。

「ありがとうよ、ジュレイン。立派に戦ったんだね」

長剣の切っ先が天獣の硬い鱗を裂く。
斬撃のたびにグレイザの剣筋はより鋭さを増していった。

さらに、回転しながら飛んできた巨大な刃型ブリッツがラズナンドの首元に突き刺さる。
怒号が大気を揺らした。

「グレイザ様!」
アムネズはグレイザに駆け寄り、もう1機のブリッツを飛ばす。

「いいのかい、アムネズ。相手はあんたが敬愛する御使いサマだよ」
振り向かずにグレイザが言う。
アムネズはうつむき、一瞬だけ困惑の表情を見せたが、すぐに顔をあげた。

「これ以上、大切な仲間を失うわけにはいきません」

アムネズが戦列に加わり、放たれた刃は天獣の尾を斬り裂いた。
傷口から淡い光が漏れ、怒りの咆哮がさらに激しさを増していく。

砂浜に硬いものがぶつかり合う音が響き渡る。
空気を裂く金属音が風に乗り、戦場の緊張感をさらに高めていた。

「ゾティアス、あんたの攻撃は無駄が多すぎる」
一進一退の攻防が続く中、グレイザが言い放つ。

「あぁん!?うるっせーんだよ!」

威勢よく返すゾティアスだが、すでに肩で息をしている。
避けそこねたラズナンドの攻撃により、全身に傷を負っていた。
法力の消費も激しく、自慢の斬撃にもかげりが見える。

しかし、ラズナンドの動きにも鈍さが目立ちはじめていた。
圧倒的だった威圧感もうすれ、その巨体がかすかに揺れるたび、蓄積されたダメージの重さを物語っている。

攻撃のたびにわずかに狂う軌道――それは天獣が確実に追い詰められていることを示していた。

「手本を見せてやるよ。左側から斬りかかりな」
「はあ、はあ…指図すんじゃねー、ババア!」

悪態をつきながらもゾティアスはラズナンドの左側に回り込む。
眼前に迫った爪を、アムネズの刃型ブリッツが弾いた。

「くたばりやがれ!」
ゾティアスは頭上に掲げた大鎌を、力のかぎり振り下ろした。
刃が天獣の鱗を貫き、光の粒子が漏れる。
悲鳴にも似た咆哮があたりに響く。

同時に、死角へと回り込んだグレイザの長剣が光を帯びた。
瞬時に全身の法力を凝縮し、念動力を刀身に送り込む。

刹那――
刃先が空気を切り裂き、雷光のようにラズナンドの首元をとらえた。
断ち切られた巨大な頭部が砂浜に落ち、小さな水しぶきを作る。

高台からその様子を見守るラージェマの表情が険しく歪んだ。

「あくまで抗うか。ならば、ここで散るがいい」

高台から静かに降り立ったラージェマの傍らには、冷たい輝きを宿した大剣が寄り添っていた。

その刃は薄青い光をまとい、陽の下で煌めきを放つ。
それはまるで、この剣が斬り裂いてきた命の重みを無慈悲に誇示しているかのようだった。

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神眼の導き
「さて、話してもらうよ。なぜ天獣をけしかけたんだい」 冷たい海風を背に、グレイザが静かに問い詰める。 対峙するラージェマは静かに歩み...

コメント

  1. 山内禅定 より:

    おっラージェマがついに戦うんですか。ぶっちゃけこのメンバーだけで勝てる気がしない(披露してるし)けど乱入あるか?

    • akima より:

      ゾティアスはもうほぼ戦闘不能状態ですね。
      グレイザも半分以上は法力を使用しているのでピンチ。
      なのに強敵!乱入は…

  2. 匿名 より:

    ラズナンドくん一話で退場か。ジュレインのおかげで倒しやすかったのかな。再生能力がない分獣魔より倒しやすそう。大型獣魔相当でもこの四人なら余裕あるね。

    • akima より:

      あまり引っ張るとテンポがわるくなるかなと。
      ジュレインのおかげもありました。
      4人だと大型の天獣でも少し余裕ある感じです!

  3. 聖剣の目隠し乙女 より:

    ドラゴンライダー!竜に乗っていると大物感があります。
    今まで的確に首を斬り落としてきたグレイザはラージェマとは相性が悪いですね。
    重要器官を貫き、首を落としてもラージェマにとっては「全体の一部」が損傷しただけ。
    決着がついたと早合点したら隙を晒す事に…。
    感応力をめぐらせた事で体の構造が根本から異なると気付けているか。
    人型サイズのラージェマ戦ではスピード強化のテルザトは適しているものの、大振りなゾティアスは噛ませ役となる様な。

    誤射の危険からシューターは参戦し辛いですが、実体弾は空中で止められて御使いには通用しないイメージがあります。
    ヴェイダル博士がグレゼイルの滅斧を解析して神気を中和・消去する弾丸を開発出来ると、獣魔・天獣への切り札になるかも。
    神気を奪う性質はアタッカーのブリッツとは相性が悪いので、弾丸に込める事で対象に着弾して反応、神気を消滅。
    ロズタロト等、実弾を撃つ聖女が活躍する機会が増える可能性に期待しています。

    • akima より:

      ドラゴンライダーという響き…
      ロマンですね!

      ラージェマは生物ではないので溺死したりはしませんが、ブリッツで刺されたり斬られたりすると存在を維持できず消滅してしまいます。
      回避率がとても高いので当てるのが大変ですが…
      なので大振りな武器を持つ聖女は相性悪いかもですね。
      ゾティアスとかユゼルテスとか。

      実弾系は今のところ影が薄いのですが、次章で活躍してくれる予定です!
      ジグナとかですね。
      獣魔相手だとどうしても牽制止まりですが、人型の敵ならかなり有効かも。

  4. 匿名 より:

    ラズナンドはブレス攻撃とかないのでしょうか。
    物理攻撃だけとなるとグエイジス君ぐらいの強さなのかな。

    • akima より:

      ラズナンドは物理ひとすじですね!
      グエイジスくんよりは強いです。
      しかし今回はちょっと相手がわるかったかな、というのと事前に聖女3人とも戦っておりますので。

  5. 匿名 より:

    ラズナンドと同時攻撃したら聖女側は全滅していたのでは…
    そうしなかったのはラージェマが迷っていたせい?

    • akima より:

      全滅までいくかはわかりませんが、もっと苦戦するか誰か倒されていたかもしれません。
      ラージェマに迷いもありましたが、慢心もありました。

  6. 匿名 より:

    金色の竜・・・
    その背中に乗る御使い・・・
    厨二成分が濃い!

    • akima より:

      そうなんですよ、中2病患者がターゲットなんです、この物語!
      より中2であればあるほど素晴らしいという世界観!

  7. 匿名 より:

    ラズナンドはもっと書き込んでもよかったと思うなー
    特殊能力のないでかい敵ってだけでもったいないと思う
    水をあやつるとか、ラージェマの凍らせる能力と相乗効果があるとか

    • akima より:

      なるほど~!
      水を使ってラージェマとの相乗効果を。
      となると聖女はそのまま倒されるかも…