黎明の聖刃

目隠しをした少女には、腕も脚もなかった。

それでも、誰より危険だった。

四本の黄金の剣が、少女を守るように浮いていたからだ。

波に揺れる船の上。

黄金の剣だけは、ぴたりと静止していた。

誰も近づけない。

近づこうとすれば、黄金の剣が静かに向きを変える。

まるで、

――触れるな。

そう告げるように。

「……まだ生きてんのか?」

船員のひとりが、小さく呟いた。

返事はない。

少女はぴくりとも動かなかった。

黎明の聖刃

繊細な刺繍の布が、静かにその目を覆っている。

濡れた長い髪が、甲板に広がっていた。

身体の先は、不自然に途切れている。

切断された跡。

そして、焼け焦げた痕。

普通なら、助かるはずがない。

それでも。

黄金の剣だけが、何かを守るように少女のそばへ浮いていた。

誰かが恐る恐る一歩を踏み出す。

剣先が、わずかに動いた。

男が硬直する。

「お、おい……」

「不用意に近づかない方がいいでしょう」

静かな声がした。

黒い外套を羽織った男が歩いてくる。

ヴェイダルという研究者だった。

まだ若い。

だが、場慣れしたような落ち着きがある。

ヴェイダルは少女を見るなり、目を細めた。

助からない。

そう思った。

焼けている。

失血もひどい。

普通なら、とっくに死んでいる。

「海の怪物と戦ってたんだ」

船員のひとりが言う。

「しかも、ひとりで」

別の男が首を振った。

「信じられねえよ……」

ヴェイダルは少女のそばへしゃがみ込む。

その瞬間――
四本の剣が、ゆっくりとこちらを向いた。

空気が変わる。

警戒。

そうとしか思えなかった。

……守っているのか。

この少女を。

ヴェイダルは静かに両手を見せる。

敵意がないことを示すように。

「安心してください」

聞こえているはずもない声で、そう言った。

「私は、あなたを助けたい」

数秒。

波音だけが響く。

やがて、黄金の剣がゆっくりと動いた。

切っ先が下がる。

道を開けるように。

ヴェイダルの眉が、わずかに動いた。

「……あなたは、何者なのですか」

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境界の死闘
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