🌐 Language / 言語
🇺🇸 [English Edition]
🇯🇵 [日本語版]
電撃が王都へ降り注いでいた。
空がうす暗い。
昼だというのに、厚い雲が光を呑み込んでいる。
王都北区。
神殿や教会が立ち並ぶ街並みの向こうで、黒煙が立ち上っていた。
時折、青白い閃光が走る。
轟音と悲鳴、そして建物が崩れる音。
空のどこかで、巨大なものが動いている気配があった。
襲撃の鐘が鳴り続けている。
司教たちは走っていた。
法衣をひるがえし、我先に。
目指す先は、大聖堂。
地下には武器庫があり、有事の避難所としても使われている。
「急げ!」
「早く!」
誰も立ち止まらない。
誰も振り返らない。
大司教ザクネルもまた、その列の中にいた。
息が乱れ、額に汗がにじむ。
――聖女たちは何をしている。
いらだちが胸を焼く。
本来なら、街を守るのは彼女たちの役目だ。
民を導き、秩序を保つ。
そのために力を与えられている。
それなのに、この混乱と無秩序。
歯噛みした、その時だった。
「――どこへ行くつもりだ」
静かな声だった。
しかし、背筋が凍るほど冷たい。
司教たちが足を止める。
見上げた先は空だった。
女が、浮いている。
目元を覆う黒いバイザー。
黄金に輝く四本の剣。
風もないのに、髪だけが静かに揺れていた。
その姿は、聖女に見えた。
だが、誰も知らない。
「お、おい!」
司教のひとりが叫ぶ。
「警護につけ! 我々を大聖堂まで――」
言葉は最後まで続かなかった。
黄金の閃き。
次の瞬間、司教の首が宙を舞った。
遅れて身体が崩れる。
血が石畳へ広がった。
誰かが悲鳴を上げる。
ザクネルの思考が止まる。
――敵?エザリスの聖女ではないのか?
「あの剣は……!」
かつてゼタリリアに授けた宝剣。
――どういうことだ?
混乱。
理解が追いつかない。
残された司教の肩をつかみ、突き飛ばす。
ただ必死で走った。
背後で悲鳴があがる。
金属音、足音。
近い――異様な殺気が、すぐ後ろまで迫っていた。
振り向けない。
振り向いたら終わる。
その時、鋭い衝突音が響いた。
「ひっ……!」
ザクネルは転倒した。
恐怖で身体が動かない。
石畳へ這いつくばる。
恐る恐る振り返る。
そこにいたのは黄金の刃を、細身のナイフで受け止める少女。
華奢な身体と白い装束。
震える腕。
それでも退かない。
「ザクネル様!」
その声を、ザクネルは知っていた。
リズレウ。
自分を守る護衛の聖女。
「逃げてください!」
黄金の剣が弾かれる。
だが次の瞬間には、別の刃が迫る。
速く、重い。
斬撃の数も重さも、何もかもが違う。
リズレウが息をのむ。
それでも前へ出た。
「退きなさい」
空の女が口を開いた。
感情の薄い声だった。
「あなたを殺すつもりはない」
リズレウの瞳が揺れる。
それでも、退かなかった。
「退けない」
震える声。
それでも、まっすぐだった。
「ザクネル様は……この国を守ってきた人です」
黄金のナイフが浮く。
祈るように構える。
「私を救ってくれたの」
空の女の眉が、わずかに動いた。
理解できなかった。
なぜ、そこまで信じられる。
逃げてもいい。
生き延びてもいい。
なのに、目の前の聖女は命を賭けている。
誰かのために――本気で。
その姿が、一瞬だけ重なる。
母の姿と。
誰かを守るために傷ついて、それでも立ち続けた人。
剣の動きが、わずかに鈍る。
その隙に、リズレウが叫んだ。
「ザクネル様!!」
ザクネルの身体が止まる。
振り返る。
血、震える肩。
自分を庇う少女。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
足が止まった。
だが、それでも走った。
誰かが秩序を守らなければならない。
自分には役目がある。
ここで死ぬわけにはいかない。

リズレウの目に、安堵が浮かぶ。
だが次の瞬間。
黄金の刃が、静かに飛んだ。
迷うひまはない。
リズレウはザクネルを突き飛ばした。
熱と、衝撃。
胸の奥が冷える。
鮮血が白い衣を染めた。
崩れ落ちる。
ぬるい血が、空の女の頬へ飛んだ。
動きが止まる。
目的は王国だった。
腐敗した者、国を壊した者たち。
そのはずだった。
聖女を殺すつもりではない。
少なくとも、こんなふうには。
「……どうして」
思わず声がもれる。
理解できなかった。
なぜ、そこまで信じられる。
なぜ、そこまで守れる。
本当に、それは正しいのか。
自分の方が間違っているのか。
揺らぎと、ほんの一瞬の迷い。
リズレウは震える指を持ち上げた。
黄金のナイフが浮く。
教皇庁から授かった刃。
勝てないことくらい、わかっていた。
ただ、少しでも時間を稼げれば。
ザクネルが逃げられるなら……それでいい。
ナイフが飛ぶ。
甲高い音。
黄金の剣がたやすく弾き返した。
もう、指に力は入らない。
視界がぼやける。
寒い。
それでも、不思議と怖くなかった。
「逃げ…て…ザクネル様……」
リズレウのつぶやきは冷たい街の空気を小さく震わせ、消えていった。
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コメント
これの続きはどこにあるんですか
すいません、今書いてます!
完成次第アップしていきます。
最後までリズレウは幸せだったってこと?納得いかねー
全部知っているとやりきれない部分が目立ちますよね。
でもリズレウ視点だと、保護されて何不自由なく育ててもらい、その恩人たちに恩返しをした上で散っていった形になりますので、幸せだったと思います。
我先に逃げ出した司祭たちに雷撃が降り注ぐ。
ある者は焼かれ、またある者は倒壊した建物の下敷きとなっていった。
『見ろ!司祭共がゴミの様だ!』
言葉を慎み給え!
君は大司祭サマの前にいるの――
ぐわあー!
リンカージェに生じた迷い。復讐への積極性が薄れる説明が不足していたので、重要な描写。
リンカージェは移動速度も群を抜いているはずが、ザクネルに追いつけない。
聖女の飛行速度は思った程速くないかもしれない。
前はさらっと書きすぎていたので、もう少し心理描写を足しました。
リンカージェの方が圧倒的に早いし、剣だって投げられるし…
なんですが、ザクネルは小道に逃げ込んだりとか、王都バトリグの下道に詳しかったんですね。
リンカージェの感応力範囲は広くないので、撹乱しつつ逃げてました。