『起きろ、女。敵だ』
空が白じんだ夜明けごろ――頭の中に残響する、くぐもった低い声。
ギルゼンスはゆっくりと目を開けた。
もっとも、目を覚ましたところで見えるのはバイザーの裏側のみ。
次に、感応力をめぐらせる。
周囲50メートル以内には人らしきものは居ない。
ただ、ギルゼンスの右腕の肘から指先までが、どす黒く染まっていた。
獣魔の力が発現しているのだ。
「…驚いたわ。あなた、人の言葉を話せるの?」
『ふん。貴様の記憶から言葉を選んでいるだけだ。戦う準備をしろ。俺は眠る』
再度、低い声が頭の中で響く。
ギルゼンスと混ざりあった獣魔エルゼナグは、彼女の記憶を読み取り、意思を持つ存在として同居していた。
――小さな足音。
感応力の範囲に数人が入り込む。
いずれも手に武器を持っている。
見知らぬ顔ばかりだが、ギルゼンスに敵意を持っていることは明らかだ。
四方から彼女のいる小屋に近づいている。
「私の正体を知った誰かが、刺客をよこしたってところかしら。面倒ね」
体をベッドから起こそうとして異変に気づく。
エルゼナグの意識は感じられなくなったが、体に新たな力がみなぎっている。
不意に、ギルゼンスの掌に小さな炎が宿った。
それは彼女の感情に呼応するように、やわらかな輝きから、激しい閃光へと変わってゆく。
「これが…私の力…?いえ、あなたの力なのね」
驚きと畏怖を込めて呟く。
その小さな炎は暖かく、しかし触れればすべてを焼き尽くす危うさを秘めていた。
彼女は黒に染まった指先を動かし、空に描かれた炎の軌跡を見つめる。
そこには浄化と破壊が同時に存在し、彼女の心に潜む決意が映し出されているようだった。
「くっふふふ…ありがたく使わせてもらうわ」
ギルゼンスはほくそ笑み、扉を開いた。
空が赤く照らされ、いくつもの絶叫が湧く。
あっという間に辺りは炎が支配する地獄へと姿を変えた。
コメント
ゼンイチ、敵だ!
ゼンイチ笑
シンイチとミギーのように分業しながら戦えたら無敵かもしれません。
ヴェノムみを感じる…
しかし炎だけで敵を排除できるとなると聖女を完全に越えた存在になってますねー
自分の内側に強力な何かが潜むパターン、どうしても入れたかったんですよね笑
人間に寄生してるけど共存し戦う、みたいな。
アームズとか…割と人気ですよね。
ギルゼンスの意識が無い時にも本人の感応力を超える範囲の敵を感知する。
油断した隙を討つ事すら困難に。
ギルゼンスが昏倒しても代わりにエルゼナグが表に出て自身の器を守る事さえありそう。
休息中を刺客に襲われると絶えず神経を張り詰めて消耗するものですが、受動的な状況まで完全無欠ですね。
アームズでは主人公以上に宿敵を討つ戦果を上げたナイトが印象的でした。
BLITZだと大物と戦う機会が多いベルナズが似ている気がします。
敵意に対して非常に敏感なので感知できてしまいます。
ひとつの体にふたつ意識があるような状況ですから、より不意打ちは難しくなりました。
でもエルゼナグは眠っていることもありますので…
ナイトはかっこいいですね!
皆川亮二先生の作品は中二病の教科書。
今日から連休なので一気読みしていますw
補助のストーリーが充実するとよりキャラが生き生きしてみえていいですね。
ありがとうございます!
キャラストーリーも読んでもらえて嬉しいです。
もう少し掘り下げていけるように、今後も追加していきます!
聖魔になった情報を一早く掴んで刺客を送る。
他国を探るオーゾレスが近い気がするものの、刺客の質の低さが気になる。
歩行、手持ち武器、高いとは言えない隠密性。
聖女の法力を知るからこそ、眠っている間は感応力も無力と判断したのか。
法力を感知されて起こさない様に、調達しやすい常人の刺客を用いたのか。
本気でギルゼンスを始末するならもっと適した人材を用意するのでは。
教皇庁のリズレウ、ヴァルネイのシュゲン等、諜報・暗殺を担当する聖女は各国に存在するはず。
聖女の大半は信条や宗教上、正々堂々としない暗殺を嫌い実行部隊に組み込めないのか。
ディメウスの場合、失敗して報復を受けると抵抗し切れないので今回は違うかと。
どのぐらい回復したのか、様子見したのかもしれません。
刺客といっても普通の人間では太刀打ちできないのは明らかですもんね。
シュゲンならチャンスあるかな。
送り込んだ側は感応力がどのぐらい働いているかを見たかったのかも?