「ん~甘っ! 美味しいけどさ。子どもが好きそうな味よねぇ」
薄いピンクの髪を揺らして聖女ロズタロトは大げさに肩をすくめた。
文句を言いながら、ふたつめのケーキに手を伸ばす。
帝城に作られた菓子工房には甘い香りがあふれていた。
苺にクリーム、卵やはちみつ。
いずれも新鮮な素材が並んでいる。
「味見がすんだら手伝え。どうせヒマなんだろう?」
振り返りもせずパルゼアが言う。
激しい戦いに身を投じる聖女帝にとって、菓子作りの時間は唯一の癒やしでもあった。
パルゼアは手に持った泡立て器で生地をかき混ぜる。
同時に、念動力で包丁を操作して苺のへたを切っていた。
他にも焼き型や小皿がひとりでに宙を舞っている。
「パルちゃんってパワー系のくせに器用よねぇ」
手についたクリームを舐め取りながら、ロズタロトは感心していた。
一度に複数の物を操作するのは容易なことではない。
「10日前だっけ、ルジエリにケーキを持たせたんでしょ?」
「……誰に聞いた」
パルゼアが少しだけ振り向く。
聖女ルジエリは定期的に孤児院を訪問している。
元は小国の集まりであるリガレア帝国には戦災孤児が多い。
ルジエリは休暇のたびに孤児院に足を運び、必要なものを買ってきたり子どもたちの世話をしているのだ。
「子どもたち大喜びだったそうよ。まさか聖女帝サマが直々に焼いたケーキだなんて知らないでしょうけど」
「ふん。力なき孤児といえど、リガレアの民であることには違いないからな」
パルゼアはしゃかしゃかとせわしなく手を動かす。
心なしか居心地がわるそうにも見えた。
「そんなことより早く手伝え」
「素直じゃないよねぇ~。もっと喜べばいいのに」
ふたつめのケーキを平らげたロズタロトは、満足気に紅茶を飲み干す。
横目でパルゼアを見た。
「ルジエリ、今日も孤児院に行くんだってさ。ま、知ってるでしょうけど」
「……そうなのか? 酔狂なヤツだ」
クリーム特有のやわらかな香りがたちこめた。
菓子工房の中央に据えられた大きなオーブンが朝からフル稼働している。
もうすぐパウンドケーキが焼き上がるだろう。
「で。今日は誰に作ってんの?」
聖女帝は答えない。
かわりに小さなため息がもれる。
彼女の前には10人分以上の材料が用意されていた。
コメント
集中して行う繊細な刃物使いや、加減に注力する必要がある泡立て器、並行して幾つもの作業を行うパルゼアの念動操作は卓越していますね。まるで魔法使い。
「持ち手がいない浮遊する器具」とパルゼアの菓子作りの雰囲気がとても良いです。
設定紹介が一段落して、人物を深掘りするほのぼのした逸話が楽しいです。
アニメ等では平和で幸せな日常回が描かれると、戦いが激化する前触れ。
ギルゼンス・ラージェマで敵性戦力が一気にインフレした感がありますが、次章の敵は果たして?
既存戦力で対処可能な獣魔やリンカージェは急に型落ちした気がします。
パルゼアは念動力の操作自体のレベルも高いので、こんなこともできちゃいます!
日々のお菓子作りが精密な念動操作につながっている…
かもしれない!
聖女たちがそれぞれどういった思いで戦っているのか、を描写していきたいなと思っております。
ただまあ、本筋とは話がそれるし、回想シーンだらけだとテンポも悪くなるので寄り道的なコンテンツです。
ここまで読んでいただけたらもう感激です笑
リンカージェはまだまだ戦えます!
聖女の中でなら最強候補!
いきなりキャラの掘り下げが連発されている謎
どういうキャラなのか?
をメインストーリーで紹介しきれていなかったので、こちらで一挙公開。
登場人物が多すぎるんですよねきっと。
これお父さんが自分にやってくれたことを孤児院の子どもたちにもしてあげたいと思ってるんよねきっと
そう思って読むとエモです
そうですね。
自分がしてもらって嬉しかったことですから…
父のことを思い出しながら作っていると思います。
ピズシエ、アルノーといった、ぽっと出で掘り下げられたキャラがいましたね。
先に聖女だろうという気もしますが、どうしても書いておきたかったんですよね笑
パルゼア「聖夜祭用のケーキだ。持っていけ」
ルジエリ「ありがとう。子供たちが喜ぶよ」
ノルディズ「そういえば、ルジエリはまだサンタとか信じているのか?」
マルジナ「あっ‼こら、なんて事言うの」
パルゼア・ゼルロズ・ルジエリ・オルゼト「…え?」
パルゼア・ゼルロズ・ルジエリ・オルゼト「サンタさん…いないの?」
果たしてこの世界に聖夜祭はあるのか!?
あったらパルゼアはケーキを絶対焼く!
サンタ信じてそうなメンバー!
パルゼアも入ってるのが面白い笑