薄暗い部屋の片隅で、ジェルメトは弟を抱きしめていた。窓から差し込む月明かりが、ふたりの小さな影を照らしている。
「大丈夫だよ。お父さんも、きっと戻ってくるから…」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた言葉が現実となることはなかった。母が家を出て行ってから一年。今度は父までもが姿を消してしまった。
わずか12歳のジェルメトは、幼い弟の唯一の保護者となった。
「大丈夫だよ、リオン。お姉ちゃんが必ず守ってあげる」
震える弟の背中をさすりながら、ジェルメトは固く誓った。どんなことがあっても、弟だけは守り抜くと。
それから数年が過ぎ、ジェルメトはギサリオ公国軍に入隊していた。
まだ十代半ばの少女には過酷な訓練の日々。
しかし、弟との暮らしを支える給金を思えば、どんな苦労も耐えられた。
夜明け前から始まる訓練、重い剣を振り続ける腕の痛み、上官の厳しい叱責。すべては弟の笑顔を守るための試練だった。
ある夜のこと、訓練場で一人残って剣を振るっていたジェルメトの周りに、不思議な光が満ちていく。
まるで月光が固形化したような、神々しい輝き。
その中で彼女は祝福を得た。
その日を境に、ジェルメトは並外れた力を得る。
剣は以前より軽く感じられ、体の動きも俊敏になった。
そして何より、神聖な力が体の内側からあふれ出るのを感じた。
ギサリオ公国がリガレア帝国に併合された後、軍の上官からひとつの話を聞く。獣魔の討伐を専門とする聖女の部隊が、新たな戦士を募集しているという。
給金は現在の三倍。
弟をもっと良い学校に通わせられる。迷う理由などなかった。
聖女部隊の本部で、ジェルメトは支給された大斧型のブリッツを手に取った。予想以上の重量に、一瞬たじろぐ。
自分の念動力であつかえるだろうか?不安が心をよぎる。
しかし、すぐに強く握り直した。元より、迷うほどの余裕はない。斧の冷たい柄に、手のひらから伝わる法力の淡い輝き。彼女は再び誓いを立てた。
(待っていて、リオン。私がもっと強くなって、あなたに幸せな人生を送らせてあげるから)
月明かりに照らされた大斧が、静かに光を放った。まるで、彼女の決意を祝福するかのように。
コメント
ロケット弾や速射砲などの銃火器が発達している時代で、重い鎧兜を身に着け剣を武器にする軍制が理解し難いです。
暴徒を鎮圧する際、銃では意外と怯まないので見るからに痛そうな近接武器(特にモーニングスター)が有効と某作品では語られていました。
この話では飛行や剣を飛ばす様子もなく、法力は身体能力の向上に留まる描き方になっていますね。
通常の金属で造られた鎧の荷重では飛行不可?
斧も念動力で操るより法力で強化した肉体で直に扱う様な。
この頃のブリッツは法力を伝達・増幅する素材を効果的に用いる以前の、洗練されていない初期型モデルだったのでしょうか。
ギサリオ公国軍が健在という事はフィデアに征服される前?
【装備のお話】
銃がありますので鎧はほぼ役に立たないのですが、近接戦闘は作中のどの国でも重要視されております。
重火器や銃器が使えない至近距離での戦闘や、銃器が使えない場面などでの手段です。
音を立てられないとか、狭いところで戦う時とか。あとはシンプルに身体の鍛錬、精神力と自信をつけるための訓練的な意味もありますね!
【念動力のお話】
飛行・剣を飛ばす、などは念動力に慣れていないとなかなか難しく、最初は自分の動きを助長することに使うのが多いです。
ただ、カンが良いというか、いきなりある程度使いこなせる聖女もいます。
イメージするのが得意な人ですね。
あんまり練習しなくても自転車に乗れる子どもみたいな感じで。
【時系列のお話】
ギサリオはまだフィデアに侵略される前ですね。
この後、魔導巨兵で攻め込まれ、ギサリオは降伏することになります。
聖女それぞれに戦う理由があるのはいいですね!
しかしジェルメトは特に重たい気がします。
フラグにならないことを祈ります!
みんな訳ありな聖女ばかりだったりします。
ジェルメトは弟のためにも生き延びなくてはなりません。
そういった意味ではより強い意思があり、強くなる可能性がある聖女とも言えます。
念動力は念じることから始まるので意思の力、大事!