「アムネズが上手くやってくれたみたいね」
ギルゼンスは満足げに微笑んだ。
「あれが……」
目の前の巨大な怪物を前に、サローザは硬直していた。
言葉が続かない。
それほどに異様な光景だった。
地下神殿ガルティラ上空。
果てなく広がる雲海に、黒い獣魔が浮かんでいる。
漆黒の鱗に覆われた巨躯は、夜の闇そのものが形を成したかのようだった。
しなやかな龍の姿をしながら、その姿には何か邪悪な歪みが感じられる。
牙を剥いた口元からは、地獄の業火のような紅蓮の炎が漏れ出している。
その度に、黒い鱗板の隙間から深紅の光が脈打ち、まるで内なる憤怒が実体化したかのようだ。
翼を広げた姿は、暗黒の神が顕現したかのような、畏怖すべき存在感を放っていた。
燃えるように赤い眼が、空中で静止しているギルゼンスたちを捉えた。
獣魔エルゼナグは身体を反らせて、息を大きく吸い込む。
「お手並み拝見ね」
銀色に輝く銃型のブリッツが4機、ギルゼンスの周囲に展開される。
サローザは狙撃銃型のブリッツを構えると、エルゼナグの側面に回り込むように旋回した。
エルゼナグの体内に集められた神気が凝縮され、閃光となって吐き出された。
地下神殿の奥底から地上まで風穴を開けるほどの熱線である。
その光を飛び越えるように滑空し、ギルゼンスは砲弾を放つ。
念動力によって誘導された弾はエルゼナグの胸元に直撃した。
もうもうと硝煙が舞った。
立て続けに放たれた砲弾も、サローザの狙撃もすべてヒットしている。
それでもエルゼナグは表情ひとつ変えず、ゆっくりと首を回してギルゼンスを見るだけだった。
「ふふふ、予想以上ね。最高よ。あなたとなら世界を調和へと導ける」
風を切り裂きながら迫る尾をかわし、ギルゼンスは笑った。
この力を使えたなら————
相反する理想を掲げた国々も、ひとつにできる。
矛盾や衝突もなく、人々が唯ひとつの理想に向かって生きられるのだ。
エルゼナグを飛び越えると、ギルゼンスはサローザの元へと滑空した。
「サローザ。お願いできる?」
「もちろんです、ギルゼンス様」
涙ぐむサローザの手には深淵の像が握られている。
この像とともに短い詠唱を終えれば、憑魔術は完成する。
別離の時が来たのだ。
炎の息を吐きながら、エルゼナグの巨体がふたりに迫る。
「あなたがエルゼナグと融合しても、ずっと一緒にいられるわ。ふたりで理想の世界を作るの」
「わたし、幸せです。ギルゼンス様、最後に……強く抱きしめてください」
サローザが装着したバイザーから涙がつたう。
冷たい風が吹く空の下で、ふたりの聖女は抱き合った。
互いの存在を確かめあうように。
ギルゼンスが抱擁を解こうとしたその時————
乾いた銃声が響いた。
抱き合ったままのふたりは、空中に浮かんだ狙撃銃によって撃ち抜かれた。
「サロー……ザ……?」
事態が飲み込めていないギルゼンスの身体を、サローザは力いっぱい抱きしめる。
振りほどこうとする手を念動力で押さえながら。
ふたりを引き裂くように、エルゼナグの鋭い爪が振り下ろされる。
サローザが小さく呟いた後、深淵の像は強い光を発した。
その光は徐々に強くなり、ふたりの聖女と巨大な獣魔を呑み込んでいく。
まるでもうひとつの太陽が空に現れたかのようだった。
幾束もの光の筋が周囲に放たれ、発光はおさまった。
空に浮かんでいるのは、体を丸めて眠る獣魔の姿のみだった。
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コメント
てっきりサローザが混ぜられるのかと思ったらまさかの裏切り。いやサローザも融合しているから犠牲にはなっているのか。エルゼナクと融合してでもギルゼンス様と一緒にいられるからハッピーエンド?続きがあるなら早めのアップをお願いします!見上げているファズニルたちがどう思っているのか知りたい。
融合はするんですが最後にギルゼンスの予想を超える行動に出る…。
最後に命令よりもギルゼンスと一体化することを選びました。
サローザ的にはハッピーエンドかもしれません。
続きはまだストックがなくて…頑張ります!
予想よりエグい幕引きで草
これ念動力とかは引き続き使える?
もし使えたら誰も勝てないw
ま、まだ続きます2章!
幕引きはもう少し先なんです。
念動力は限定的に使える感じです。
意識がハッキリ残っているわけではないので。
サローザ思いの外大活躍❕❕愛しの聖女皇とお幸せに!
手駒ではなく自分が獣魔と融合してもなお、ゼタリリアは調和や理想を語れるのでしょうか。
最強候補のエルゼナグが念動力まで備えると、誘導熱線と感応力で死角が無い強敵になりますね。
回避に念動で干渉して押さえ込まれると危険な事になります。
未だ伏せられている3大獣魔最後の一体は物理的な強さより、特殊能力で存在感を差別化していく感じですかね。
う~ん、大活躍なんでしょうか。
エルゼナグ+聖女皇なので非常に厄介な敵が出来上がりました。
怪力+念動力+熱線で近づけないですね。
>特殊能力で存在感を差別化していく
す、するどい…!
だんだん強くなっていくのも不自然かな、ということで最強候補のエルゼナグが2番めに登場しました。
ラスト1体の構想も練ります!
長文のうえにお気持ち炸裂になってしまい恐縮ですが・・・策略家のギルゼンスがこんなにあっさり融合されてしまうなんて!巻き添え合体は予想外だったということでしょうか。それだけサローザのことを舐めていたのかもしれませんが。いざとなればいつでも捨てられるし、何でも言うことを聞く奴隷ぐらいにしか思っていなかったとか?ところでエルゼナグはマナグロアに比べても数段強そうに見えます。だって地下から天井まで風穴を開けちゃうんでしょ~。さらに聖女の中でもトップクラスの実力を持つギルゼンスも取り込んで。どうやって倒すんですか??次の話を読むのがちょっと怖い~。
コメントありがとうございます!
全然嬉しいです、大変励みになります。
ギルゼンスについてはご指摘どおりで、サローザのことを軽く見ていた節はあります。
あと遠距離攻撃と搦手ばっかり使って勝ってきたので、近間でのもみ合いはそれほど強くなかったのもあります。
マナグロアもリンカージェと戦ってなければもう少しやれたんですが…
その分エルゼナグはぐっすり封印されて全快モードです。
次も読んでいただけると嬉しいです。
獣魔と合体しちゃったら一緒にいれないもんね^ω^;
ギルゼンスから聞いた時はどんな気持ちだったんでしょうか
役に立てる喜びと人間の姿で一緒にいられない悲しみ
どっちが大きかったんでしょうか
かなりショックだったとは思います。
一度は融合を受け入れたけど、土壇場で側にいたい気持ちが暴発しちゃいましたね。
聖女の意識がはっきり残っている訳ではないとなると、憑魔術もエルゼナグ程の相手では利きが悪いみたいです。
聖女が余分に増えたから深淵の像と憑魔術本来の効果を発揮できないのか、聖女二人掛かりでも巨竜の自我に捻じ伏せられるのか、当初の目論見通りの制御は無理だった訳ですね。
ギルゼンスと入力したつもりが何故かゼタリリアに!?意味は通じているでしょうが、お恥ずかしい///
まさしく仰るとおりでエルゼナグが強すぎて取り込まれそうになってる感じですね。
聖女なら自由にコントロールできるかというと、そんな甘い話でもなく…
>ギルゼンスと入力したつもりが
いえいえ、いっぱい聖女が登場するので名前間違えちゃいますよね笑
キャラクターの心理描写をもっと丁寧に描くべきだと思うけどなー
話の展開が早すぎ。
焦らなくても一度読み始めた人はそう簡単には切りませんよ?
ご意見ありがとうございます。
「どういう話なのか」がわかりやすく作りたいという気持ちがあるので、このようなスピードになっています。
登場人物が多いので一人ひとりを書くと長くなるというのもありますが…
なんとか最後まで読んでもらえるように工夫してみます
おもてたんと違う!
そうですね笑
サローザだけ融合させようと思ったんですが、そう上手くはいかなかったみたいです