「あたしの娘たちを手にかけたんだ。生かしちゃおけない」
血に塗れた聖女を抱きかかえたまま、聖女グレイザは低くつぶやく。
バイザーの下で狂気に満ちた目が海をにらんでいた。
ヴァルネイ共和国の北東、国境近く。
こつ然と現れた怪物によって、沿岸を警備していた三人の聖女が死んだ。
いずれもグレイザが戦い方を教え、娘同然に接してきた者たちだった。
「グレイザ様。お気持ちはわかります。しかし、目撃者の話では襲撃してきたのは天獣だという話です。いったん退いて、作戦を――」
「作戦もクソもないんだよ。これは弔い合戦だ。アムネズ、つべこべ言わずに頭数をそろえな。無理ならあたしがひとりで決着をつける」
吐き捨てるようにグレイザが言う。
追跡をたしなめるアムネズの言葉は、彼女には届いていなかった。
このままでは単騎で天獣の群れに突っ込むに違いない。
「仮に相手が天獣なら相応の準備が必要です。わたしが地下神殿で戦った天獣の力は、大型獣魔と同等かそれ以上でした」
「大型獣魔が何だってんだい?あたしが何匹殺したか教えてやろうか」
グレイザは聖女の亡骸をやさしく地面に寝かせると、アムネズを見上げた。
齢60を超え、一線を退いたとはいえ、グレイザの法力は衰えていない。
その気迫は他の聖女とは一線を画していた。
「あなたの力はよく知っています。ですが天獣は――」
「もういい。手本を見せてやる。ナメた真似をするヤツは天獣だろうが神だろうがブッ殺す。それが聖女さ」
グレイザは長剣型のブリッツを肩に担ぐと、ふわりと空中に浮かび上がった。
目撃者の話では天獣は三人の聖女を殺めた後、西に向かって飛び去ったという。
おそらく、西の沿岸にある砦に向かっているのだろう。
聖女たちが海から現れた獣魔を迎え撃つために待機しているからだ。
グレイザは空中を蹴り、疾風のように飛びながら叫んだ。
「首を洗って待ってな、天獣ども。皆殺しだ!」

コメント
好戦的な聖女が多い中でも、理屈抜きに敵は殲滅するグレイザの姿勢が爽快です。
綺麗事をバッサリ切って捨てる舌鋒に胸がすく思いがします。
ややこしいことは抜きにしてズバッとわかりやすく話を進めていくタイプですね。
それができる実力も備わっているという…
立ち姿かっけえ!おばあちゃん聖女は斬新だね。
そうですね、意外性を出したいなと。
黄色いマントも今までにはないと思います笑
なにっいきなり聖女が殺られている。
そんでこの婆ちゃん強そうすぎやろ!
激戦の影で倒れていく聖女もおります…
グレイザは達人系聖女です!つよい!
五章始まってる~
これまでとは違った切り口で楽しみです。
はじまってますはじまってます!
序盤、回想からなのですがぜひお読みくださいm(_ _)m
仮にもエルゼナクを倒した聖女のアムネズにここまで強気で言えるってことは相当な実力なんだろうなと
アムネズもおばさまには頭が上がりません。
でも口だけじゃないんだなおばさま。